派遣で働いていて「もう辞めたい」と思ったとき、最初につまずくのは気持ちの問題ではなく、そもそも誰に言えばいいのか分からないことではないでしょうか。毎日顔を合わせているのは就業先の社員なのに、給与明細の会社名は別。話す相手を間違えたら気まずくなりそうで動けない——。
派遣は正社員とは仕組みが違い、正社員向けの「退職の伝え方」を真似すると話す相手からずれます。この記事では条文にあたりながら誰に言うのか、契約期間の途中か満了かで何が変わるのかを整理します。
- 法律はe-Gov法令検索の条文原文にあたり、条文番号と参照日を添えています。
- 個別の契約書の解釈や条文への当てはめは行いません。必要な場面では相談先をご案内します。
- 雇用保険(失業給付)の金額・日数・要件は当サイトでは扱いません。ハローワークにご確認ください。
まず押さえる一点|あなたの雇用主は「派遣元」です
派遣がややこしいのは登場人物が三者いるからです。あなた、派遣会社(派遣元)、働きに行っている会社(派遣先)。このうちあなたと労働契約を結んでいるのは派遣元だけです。給与を払い、社会保険に入れ、有給休暇を管理するのも派遣元です。
派遣先は「仕事の指示を出す会社」であって雇用主ではありません。派遣先とあなたの間に労働契約はなく、派遣先と派遣元の間に労働者派遣契約という別の契約があるだけです。労働者派遣法第26条第1項は、この契約に「業務の内容」(第1号)「労働者派遣の期間」(第4号)などを定めることを求めています(e-Gov法令検索・労働者派遣法/2026-07-21参照)。辞めるという話はあなたと派遣元の労働契約の話です。


「誰に何を言うか」の早見|困りごと別の窓口
| 困っていること | まず話す相手 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 辞めたい/更新したくない | 派遣元の営業担当 | 労働契約の相手が派遣元だから |
| 就業先の環境・人間関係 | 派遣元の営業担当(派遣先責任者も可) | 派遣法第40条第1項で、派遣先は苦情を派遣元に通知し連携して処理を図る義務がある |
| 指示内容が契約と違う | 派遣元の営業担当 | 業務の内容は派遣契約の記載事項(派遣法第26条第1項第1号) |
| 給与・有給休暇・社会保険 | 派遣元 | 雇用主としての管理事項だから |
| 就業先を変えたい | 派遣元の営業担当 | 就業機会を用意するのは派遣元の役割 |
派遣法第40条第1項は派遣先に対し、苦情の申出を受けたときはその内容を派遣元に通知し、派遣元と密接に連携して、誠意をもって遅滞なく適切かつ迅速な処理を図らなければならないと定めています。「派遣先に言っても無駄だろう」と思い込む必要はありません。ただし契約そのものの話は派遣元が相手です。
契約期間の途中か、満了のタイミングか
ここが派遣特有の分かれ道です。「退職は2週間前に言えばいい」という説明は期間の定めのない雇用を前提にした民法第627条第1項の話で、契約に期間の定めがあるならそのままは当てはまりません。
確認するのは、労働条件通知書や雇用契約書の契約期間の欄です。始期と終期があるなら有期雇用契約、期間の記載がなければ無期雇用契約です。派遣法は「有期雇用派遣労働者」(第30条第1項)と「無期雇用派遣労働者」(第30条の2第1項)の両方を定義しています。書類を見るまで決めつけないでください。

契約が「無期」の場合
期間の定めがない場合、民法第627条第1項が適用されます。条文は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めています(e-Gov法令検索・民法/2026-07-21参照)。
ただし派遣元の就業規則に申し出時期の定めがあることも。確認して日程を相談するのが現実的です。
契約が「有期」で、満了で終える場合
有期契約で最も摩擦が少ないのは契約期間の満了で終える選択です。更新を希望しない意思を伝えれば、期間の満了とともに労働契約は終了します。更新の打診が来た時点かその前に伝えるのが実務的です。
なお、満了後も働き続け使用者が異議を述べない場合、民法第629条第1項により同一条件で更に雇用したものと推定されます。意思は満了前に伝えましょう。
契約が「有期」で、期間の途中に辞めたい場合
期間の途中の話になると、根拠になるのは民法第628条です。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
出典:e-Gov法令検索「民法」(2026-07-21参照)
読み取れるのは二つです。期間の定めがあってもやむを得ない事由があれば直ちに解除できる道が開かれていること。そしてその事由に当たるかの判断が必要になることです。条文は中身を列挙していないため、記事の側で当てはめを断定することはできません。
大切なのは「途中でもいつでも辞められる」とも「絶対に辞められない」とも思い込まないことです。ひとりで結論を出さず、まず派遣元に伝え、必要なら公的窓口(記事後半でご案内)に確認してください。
労働基準法附則第137条は、どんな契約に使えるのか
「有期契約でも1年経てば辞められる規定」と紹介されることがありますが、条文には対象を絞る要件があります。原文を確認しましょう。
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」(2026-07-21参照)
括弧書きに注目してください。対象は「その期間が一年を超えるもの」に限られます。3か月契約や6か月契約は、この条文の文言上の対象ではありません。さらに「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」と、労働基準法第14条第1項各号の労働者(高度の専門的知識等を有する者、満60歳以上の者)も除かれます。
短い契約を繰り返し更新して通算1年を超えた場合に及ぶかは、条文の文言だけからは一義的に読み取れません。ここは断定せず、判断が必要なときは総合労働相談コーナーなどの公的窓口に確認してください。
聞いていた条件と実際が違うとき
労働基準法第15条第1項は使用者に労働契約締結時の労働条件明示を義務づけ、同条第2項は「前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」と定めています。
ここで効いてくるのが労働条件通知書です。「聞いていた業務と違う」という感覚を書面に明示された条件と実際の相違という形に置き直せるかが分かれ目です。営業担当に書面を示して相違を伝え、派遣先に確認してもらうのが最初の一手です。
辞めたい理由別に、確認する場所が変わります
就業先の人間関係・雰囲気が合わない
辞める前に検討できるのが就業先を変える選択肢です(次章で扱います)。営業担当に伝えるときは、感情よりも、いつ・どこで・どんなやりとりがあったかを時系列で並べると話が通ります。

業務内容が契約と違う
前章のとおり、労働条件通知書と就業条件の書面を突き合わせます。相違があるなら感想ではなく確認できる事実です。書面が手元になければ派遣元に交付を求めてください。
体調・心身の不調
眠れない、食欲がない、休日になっても回復しない——こうした状態が続くときは、キャリアの判断より先に医療機関にご相談ください。厚生労働省の相談窓口「こころの耳」の電話相談(0120-565-455/フリーダイヤル・無料)もあります。受付は平日17:00〜22:00、土日10:00〜16:00(祝日・振替休日・年末年始は休止)。非通知発信は不可のため「186」を付けて発信します(厚生労働省「こころの耳」電話相談/2026-07-21参照)。健康の確認が先、進路の判断は後です。
働き方そのものを変えたい
更新のたびに先が見えない不安がある——という事情もあります。派遣法第30条の2第2項は派遣元事業主に対し「その雇用する派遣労働者の求めに応じ、当該派遣労働者の職業生活の設計に関し、相談の機会の確保その他の援助を行わなければならない」と定めています。求めれば相談の機会が用意される仕組みです。使えるものは使ってかまいません。
派遣元の営業担当への伝え方
連絡は電話でもメールでも成立しますが、記録に残るメールを併用すると後から「言った・言わない」になりません。電話で伝え、内容をメールで送る形が扱いやすいです。
伝える内容は三つに絞ります。①いつまでで終えたいか ②理由(詳細である必要はない) ③引き継ぎに協力する意思。営業担当は派遣先との関係も抱えています。批判を並べるより次の調整に必要な情報を渡すほうが早く動いてもらえます。
更新しない意思を伝える(メール文例)
件名:契約更新に関するご相談(氏名/派遣先名 就業) 〇〇株式会社 〇〇様 いつもお世話になっております。 〇〇(派遣先名)に就業しております〇〇です。 現在の契約が〇月〇日で満了となりますが、 今後のキャリアを考え、今回は更新を見送らせて いただきたく、ご連絡いたしました。 引き継ぎには最後まで協力いたします。 今後の手続きについてご相談させてください。
期間の途中で相談したい(メール文例)
件名:就業継続についてのご相談(氏名/派遣先名 就業) 〇〇株式会社 〇〇様 いつもお世話になっております。〇〇です。 現在の就業先での勤務についてご相談があり、 ご連絡いたしました。 〇〇(体調面/業務内容の相違など、事実を簡潔に)という 状況が続いており、契約期間内での就業継続について 一度ご相談させていただきたく存じます。 可能な対応や今後の進め方について、 お話しできるお時間をいただけますでしょうか。
いきなり「辞めます」と結論から入るより「相談させてほしい」という入口のほうが話が進みます。派遣元には就業先を変える手札もあるからです。

辞める=派遣元との契約終了、とは限りません
つらいのがいまの就業先なら、辞めるべきは派遣元との契約ではなく、その就業先での就業かもしれません。雇用関係を保ったまま別の派遣先に移る道があります。
派遣法第30条第1項は、同一の組織単位の業務に継続して1年以上従事する見込みの有期雇用派遣労働者(条文上は「特定有期雇用派遣労働者」)などについて、派遣元が①派遣先への直接雇用の申込みを求めること ②新たな就業機会の確保・提供 ③期間を定めない雇用の機会の確保・提供 ④その他の措置を講ずるよう努めなければならないと定めます。同条第2項は、継続して3年間従事する見込みの場合、この「努めなければならない」が「講じなければならない」に変わると定めています(努力義務から義務へ)。
また派遣法第35条の3は、派遣元が同一の組織単位の業務について3年を超えて同一の派遣労働者を派遣してはならないと定めています(無期雇用派遣労働者に係る派遣などは第40条の2第1項各号により除かれます)。いまの就業先での期間には制度上の区切りがあると知れば、「ここを離れたら終わり」という感覚から距離を取れます。

次の働き方を考える
派遣元との契約も終える場合、選択肢は三方向です。どれが優れているという話ではなくあなたが何を優先したいかで決まります。
| 方向 | どういう働き方か | 向き合う論点 |
|---|---|---|
| 別の派遣会社・別の派遣先 | 派遣は続け、就業環境を変える | 就業条件を登録段階でどこまで詰められるか |
| 無期雇用派遣 | 派遣元と期間の定めのない契約を結ぶ | 派遣可能期間の制限の対象外(派遣法第40条の2第1項第1号)。就業先の決まり方を派遣元に確認する |
| 直接雇用への転職 | 働く会社と直接、労働契約を結ぶ | 選考が入る。企業研究と条件確認の手間が増える |
直接雇用を目指す場合、派遣で積み上げた経験は職務経歴として説明できる素材になります。複数の職場を経験したなら環境が変わっても立ち上がれる材料に、同じ業務を長く続けたなら専門性の材料に。「何が向いているのか分からない」段階なら、求人を見る前に整理するほうが遠回りになりません。

なお、契約終了後の雇用保険の取り扱いは条件によって変わります。当サイトでは金額や日数を扱っていません。ハローワークでご確認ください。離職票は派遣元から交付されます。
公的な相談窓口
- 各都道府県の労働局・労働基準監督署内などに設置。
- 公式ページに「予約不要、ご利用は無料です。」と記載されています。
- 公式ページに「相談者の方のプライバシーの保護に配慮した相談対応を行います。」と記載されています。
- 「土・日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日)は閉庁しております。」と案内されています。
- 最寄りの窓口は厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」から確認できます(2026-07-21参照)。
相談には労働条件通知書(または雇用契約書)、就業条件の書面、やりとりのメールを持参すると話が早く進みます。「契約期間の欄がどうなっているか」が、この記事で見てきたとおり分かれ道だからです。
Q&A|派遣を辞めるときの疑問
- Q退職の意思は、派遣先の上司に伝えてもいいですか?
- A
労働契約の相手は派遣元なので、正式な申し出先は派遣元です。派遣先に先に伝えると、派遣元が事情を知らないまま話が動くことがあります。営業担当に先に連絡し、派遣先への伝達方法もそこで相談してください。
- Q「2週間前に言えば辞められる」と聞きましたが、派遣でも同じですか?
- A
根拠である民法第627条第1項は「当事者が雇用の期間を定めなかったとき」の規定です。期間の定めがある場合は当てはまらず、期間途中の解除は民法第628条(やむを得ない事由)の問題になります。まず労働条件通知書の「契約期間」欄を確認してください。
- Q3か月契約を更新して1年以上働いています。労働基準法附則第137条は使えますか?
- A
同条は対象を「その期間が一年を超える」有期労働契約に限っており、3か月契約は文言の対象ではありません。更新を重ねて通算1年を超えた場合に及ぶかは条文からは一義的に読み取れないため、この記事では断定しません。契約書を持参して総合労働相談コーナーにご確認ください。
まとめ|順番が分かれば、動けます
- 雇用主は派遣元。辞める話の相手は派遣先ではなく派遣元(窓口は営業担当)。
- まず労働条件通知書の「契約期間」欄を見る。有期か無期かで根拠条文が変わる。
- 無期なら民法第627条第1項。有期の期間途中は民法第628条(やむを得ない事由)の問題。
- 労働基準法附則第137条は「その期間が一年を超える」有期契約が対象。3か月・6か月契約は文言上の対象外(更新を重ねた場合の扱いは窓口へ)。
- 聞いていた条件と違うなら、労働基準法第15条第2項と書面の照合が起点。
- 辞める=派遣元との契約終了とは限らない。就業先を変える道がある。
- 迷ったら契約書を持って総合労働相談コーナーへ(予約不要・無料)。
派遣を辞めたいと思ったとき動けなくなる原因は、気持ちの弱さではなく仕組みが見えていないことにあります。誰に言うのか、いまどの期間にいるのか。この二つが分かれば次の一手は具体的になります。

心や体に不調が出ているときは、この記事よりも専門家の判断が優先です。まず健康を守ってください。