「もう辞めよう」と決めた。でも、上司に退職理由をどう伝えればいいのか——本音をそのまま言っていいのか、当たり障りのない言い方にすべきか、そこで手が止まる人はとても多いです。
この記事は、現職に退職を伝えるときの「理由の言語化」に特化した例文集です。理由タイプ別(キャリアアップ/家庭/健康/人間関係)と場面別(直属の上司に切り出す一言/面談で深掘りされたとき/引き止められた後)の、そのまま口に出せる文をまとめました。本音と建前をどう使い分けるかも整理します。
似たテーマの記事と役割を分けています。そもそも切り出せない・何から準備すればいいかという段階なら、心理と準備の全体像をまとめた次の記事が先です。この記事はその「準備4:理由を1つに絞る」を、例文まで踏み込んで深掘りする位置づけです。

また、転職先の面接で聞かれる「退職理由」は、伝える相手も目的もまったく別物です(採用担当に前向きさを示す場)。現職に伝える理由(この記事)とは書き分けが必要なので、面接用は次の記事を参照してください。

退職理由は「本音」と「建前」を分けていい
前提として、退職理由に本音をそのまま告げる義務はありません。自己都合の退職届では、慣行として「一身上の都合により」と書くのが一般的で、口頭でも詳細な事情を細かく述べる必要はありません。本音(=辞める本当の動機)と、会社に伝える建前(=角が立たない言い方)を分けて考えて大丈夫です。
建前を使うのは、ごまかすためではありません。円満に、こじれさせずに辞めるためです。残る同僚との関係、引き継ぎのしやすさ、退職日までの空気——ここを守るための実務的な選択です。
もう一つの前提として、退職に会社の「許可」は必要ありません。理由を細かく告げる法的な義務もないのです。ここを誤解していると、つい「納得してもらえる理由を用意しなければ」と力み、本音を全部さらけ出す方向に傾いてしまいます。退職の法的な仕組みや切り出す前の準備の全体像は姉妹記事「言い出せない」編に譲り、この記事は「では実際に何と言うか」という言葉の部分だけを担当します。
原則:会社が「改善提案できない理由」を1つだけ伝える
伝える理由を選ぶ基準はシンプルです。会社が「じゃあ改善するから残って」と返せない理由を選びます。改善提案の余地がある理由を出すと、引き止めが長引き、結論を出すまでの面談が何度も設定されるだけだからです。
| 伝える理由 | 会社の返し方 | 向き |
|---|---|---|
| 給与に不満がある | 「昇給を検討する」と返せる | × |
| 人間関係がつらい | 「異動を検討する」と返せる | × |
| 残業・労働時間がきつい | 「業務量を調整する」と返せる | × |
| 別の分野に挑戦したい | 社内では用意できない | ○ |
| 家庭の事情がある | 立ち入りにくい | ○ |
本音が「上司と合わない」でも、伝える理由は「別の分野に挑戦したい」で構いません。本音の吐露と、円満に辞めるための建前は、両立させてよいのです。以降は、この原則にそって理由タイプ別・場面別の例文を並べます。


円満に伝えるための3つの鉄則
①理由は前向きに1つだけ(不満・複数はNG)
②退職日を先に決めて一緒に伝える(「いつでも」は話が進まない)
③意思は決定事項として言い切る(「相談」ではなく「報告」)
この3つは、理由タイプが何であっても共通です。逆に言えば、この3つを外すと、どんなに立派な理由を用意しても引き止めが長引きます。「何を言うか」と同じくらい「どう言い切るか」が結果を分けると覚えておいてください。
【理由タイプ別】そのまま使える退職理由の例文
本音を、伝えても角が立たない建前に「翻訳」した例文です。◯月◯日などは自分の状況に置き換えて使ってください。
キャリアアップ・新しい挑戦(もっとも使いやすい)
もっとも引き止めにくく、応援されやすい理由です。今の会社を否定せず、「次でやりたいこと」に軸を置くのがコツです。
「かねてより◯◯の分野に挑戦したい気持ちが強くなり、社外で経験を積む決断をしました。ここで学ばせていただいたことには本当に感謝しています。◯月◯日での退職を考えております。」
「今の仕事が不満」ではなく「次でやりたいことが明確になった」という前向きな一貫性を持たせると、引き止めの言葉が出にくくなります。具体的な社名や転職先は言う必要はありません。聞かれても「これから固めていくところです」で十分です。
家庭の事情(詳細を説明しなくてよい)
家庭を理由にする場合、詳細を細かく語る必要はありません。踏み込みにくい領域なので、引き止めもしにくくなります。
「家庭の事情により、働き方を見直す必要が出てきました。ご迷惑をおかけしますが、◯月◯日をもって退職させていただきたく、ご相談に参りました。」
「介護」「配偶者の転勤」など具体を添えると納得は得やすいですが、聞かれない限り詳細まで話す義務はありません。答えたくない部分は「家庭の事情で」でとどめて構いません。深掘りされたら「プライベートなことなので」と一言添えれば、それ以上は踏み込まれにくくなります。
健康上の理由(伝え方に注意が必要)
体調を理由にする場合は、伝え方を少し慎重にします。診断名まで細かく言う必要はなく、「療養・回復に専念したい」というトーンで十分です。
「体調を整えることを優先したく、◯月◯日をもって退職させていただきたいと考えております。業務に支障が出る前に、きちんと引き継ぎをさせてください。」
【重要】いじめ・ハラスメントや心身の不調が「本当の退職理由」である場合の注意
体調不良やハラスメントが本当の理由のときは、伝え方を工夫するのとは別に、日付・やりとりの内容・診断書などの記録を必ず残しておいてください。こうした事情は、退職後の失業給付で離職理由の扱いが変わり得るためです(該当するかどうかの判断はハローワークが行います)。円満のために口頭で軽く流しても、記録が残っていないと後から事実を示しにくくなります。離職理由の扱いは、退職前に一度ハローワークへ確認しておくと安心です。
在職中にできるハローワークの手続きや、退職前に確認しておくとよいことは次の記事にまとめています。

人間関係(本音は「建前」に翻訳する)
人間関係は、伝える理由としてはもっとも避けたいタイプです。「異動を検討する」と返されて引き止めが長引くうえ、当事者が社内に残るため角が立ちます。本音が人間関係でも、伝える建前は前向きな理由に翻訳します。
| 本音 | 伝える建前(翻訳例) |
|---|---|
| 上司と合わない | 「新しい環境で自分の力を試したい」 |
| 職場の雰囲気が合わない | 「◯◯の分野に専念できる環境に移りたい」 |
| 評価に納得できない | 「別のキャリアの方向性を選びたい」 |
「◯◯の分野に専念できる環境で、新しく挑戦したいと考えるようになりました。◯月◯日をもって退職させていただきたく、ご相談に参りました。」
ただし、人間関係の悪化がいじめ・ハラスメントの域に達している場合は、上の健康の項でも触れたとおり、伝え方の工夫とは別に記録を残し、離職理由の扱いをハローワークに確認してください。「円満に」を優先しすぎて、あなたが本来受けられる扱いを自分から手放さないためです。

【場面別】退職を切り出す・伝える例文
理由が決まったら、あとは場面ごとに言葉を当てはめるだけです。「切り出す一言 → 面談で深掘りされたら → 引き止められた後」の3場面をカバーします。
場面1:直属の上司に最初に切り出す一言(切り出し方)
まずはアポを取ります。「相談があります」と切り出し、他の人に聞かれない場を15分だけ確保してください。廊下ですれ違いざまに言うのは最悪の形です。
(アポ取り)「お疲れさまです。ご相談したいことがあり、15分ほどお時間をいただけないでしょうか。今週の木曜か金曜の夕方で、ご都合のよいときはありますか。」
当日の最初の一文は、結論から言い切るのが最大のコツです。「辞めたいと思っていまして……」と語尾を濁すと、そこから相談の会話が始まり、話が振り出しに戻ります。
(当日の最初の30秒)「お時間ありがとうございます。突然で恐縮ですが、退職させていただきたく、ご報告に参りました。◯月◯日を退職日として考えています。」

場面2:面談で理由を深掘りされたら
「どうして?」「何が不満だったの?」と聞かれたら、準備した理由を1つだけ返します。不満を口にすると話が改善提案に移り、退職の話が止まります。
「◯◯の分野に挑戦したい気持ちが強くなり、社外で経験を積む決断をしました。ここでの経験には本当に感謝しています。」
「もっと具体的に」と重ねられても、詳細を増やす必要はありません。同じ理由を、言葉を変えずに繰り返すのがいちばん強い。理由が一貫していれば、それ以上の追及は続きません。逆に、聞かれるたびに説明を足していくと、そのどれかに会社が反論の糸口を見つけ、話が改善提案へ流れていきます。増やさず、変えず、繰り返す——これが面談を最短で終わらせるコツです。
場面3:引き止められた後の返し方
引き止めの言葉はパターンが限られます。返しを先に決めておけば、その場で考えずに済みます。守るのは1点、その場で結論を変えないことだけです。
| 引き止め文句 | 返しの型 |
|---|---|
| 「今は人がいない、時期を考えて」 | 「ご迷惑をおかけします。引き継ぎは◯月◯日までに終わるよう準備します」 |
| 「給与を上げるから残ってほしい」 | 「ありがたいお話ですが、金銭面の問題ではないので結論は変わりません」 |
| 「もう一度考え直してみて」 | 「時間をかけて考えた結論ですので、◯月◯日での退職でお願いできればと思います」 |
| 「後任が決まるまで待って」 | 「退職日は◯月◯日で考えています。引き継ぎには全力で協力します」 |
共通しているのは「謝意 → 事実 → 日付」の順です。感謝を述べ、決定事項として日付を置き、反論はしない。この型で、話は10分ほどで収束します。
退職届・退職願に書く退職理由は「一身上の都合」でよい
口頭で理由を伝えたあと、書面(退職届・退職願)を求められることがあります。ここで理由を長々と書く必要はありません。自己都合退職では「一身上の都合により」と記すのが慣行で、これで足ります。
退職届
このたび、一身上の都合により、◯◯年◯月◯日をもって退職いたします。
◯◯年◯月◯日
◯◯部 氏名 ㊞
◯◯株式会社 代表取締役◯◯◯◯ 殿
健康や家庭の事情でも、書面はこの一文で問題ありません。口頭で伝えた建前と、書面の「一身上の都合」は矛盾しません。詳細な事情を書面に残すと、かえって扱いが硬直することがあるため、書面はシンプルに保つのが実務のコツです。
メール・チャット・電話で退職理由を伝えるときの文例
対面が原則ですが、上司が不在がち・体調が限界・過去に強い引き止めがあった——といった場合、まず文面や電話で伝えるのは現実的な選択です。理由は一文だけ添え、詳細は面談でという形にすると、書きすぎずに済みます。
件名:退職のご相談(氏名)
◯◯部長
お疲れさまです。◯◯です。
突然のご連絡で恐縮ですが、◯月◯日をもって退職させていただきたく、ご連絡いたしました。かねてより考えていた◯◯の分野に挑戦するための決断です。
つきましては、引き継ぎの進め方についてご相談させていただきたく、来週前半で15分ほどお時間をいただけないでしょうか。
本来であれば直接お伝えすべきところ、書面でのご連絡となり申し訳ございません。
◯◯(氏名)
電話で伝える場合も、最初に用件を言い切るのは同じです。「ご報告があってお電話しました。◯月◯日をもって退職させていただきたく——」と、結論を先に置きます。


やってはいけない退職理由の伝え方(NG例)
伝え方を1つ間違えると、円満退職が一気に遠のきます。次の5つは避けてください。
| NGな伝え方 | なぜ避けるか |
|---|---|
| 会社や上司の不満をぶつける | 感情的な対立になり、引き継ぎ・有給消化がこじれる |
| 「まだ迷っている」と伝える | 「なら考え直せる」と引き止めの口実を与える |
| 複数の理由を全部並べる | 1つずつ反論・改善提案され、面談が長引く |
| 同僚や取引先に先に話す | 上司の耳に噂で入り、信頼関係が崩れる |
| 退職日を決めずに切り出す | 「いつでもいい」と受け取られ、話が進まない |
共通するのは、「交渉の余地」と「感情」を残さないこと。理由は前向きに1つ、日付は明確に、感情は挟まない。これだけで大半のトラブルは避けられます。
例文を用意しても、伝えられる状況にないときは
ここまでの例文は、会社が普通に対応する前提のものです。大半の職場はこれで進みます。ただし、なかにはそうでない場合もあります。
- 例文を用意しても、上司の前に立つと動悸や不眠が出て、そもそも伝えられる状況にない
- 退職を伝えても「預かっておく」と言われたまま、何度伝えても話が進まない
- 「損害賠償を請求する」「懲戒にする」と脅すような対応をされている
この状態まで来たら、自力で押し切ることに価値はありません。まずは無料で使える公的な相談窓口(各都道府県労働局・労働基準監督署内の「総合労働相談コーナー」)があります。そのうえで、有給の消化や退職日、未払い分の交渉まで必要なら、弁護士が対応する退職代行という選択肢もあります。弁護士法人zenの退職代行は、弁護士法人が運営し、相談自体はLINE・メールで受け付けています。
なお、動悸や不眠が続くなど心身に症状が出ているなら、退職の伝え方より先に医療機関や産業医に相談してください。
順番を間違えないでください。この記事の主旨は、あなた自身の言葉で退職理由を伝えることです。例文を用意しても伝えられる状況にない、会社がまったく取り合わない、体調が限界——そこまで来たときの最後の選択肢です。多くの人は、理由の言葉さえ決まれば自分で伝えられます。
よくある質問(FAQ)
- Q退職理由は本音を言うべきですか?
- A
本音をそのまま告げる義務はありません。自己都合の退職届は慣行として「一身上の都合により」と書くのが一般的で、口頭でも詳細を細かく述べる必要はありません。円満に辞められるよう、角の立たない前向きな理由(キャリアアップ・家庭の事情など)に「翻訳」して伝えて構いません。嘘をつくのではなく、伝える真実を選ぶ、という考え方です。
- Q人間関係が理由でも「一身上の都合」でいいですか?
- A
はい。人間関係を直接の理由にすると「異動を検討する」と返されて引き止めが長引くため、伝える建前は「新しい環境で挑戦したい」などに翻訳するのが実務的です。ただし、いじめ・ハラスメントが本当の理由の場合は、伝え方とは別に日付ややりとりの記録を残し、離職理由の扱いをハローワークに確認してください。
- Q健康が理由のとき、診断書は会社に出すべきですか?
- A
会社に伝えるだけなら、診断名まで細かく言う必要はなく「体調を整えることを優先したい」で十分です。一方で、心身の不調が本当の退職理由なら、退職後の失業給付で離職理由の扱いに関わる可能性があるため、診断書ややりとりの記録は手元に残しておきましょう。該当するかどうかの判断はハローワークが行います。
- Q引き止められて情に流されそうなときは?
- A
返しを紙に書いて持っておくのが有効です。守るのは「その場で結論を変えない」ことだけ。「もう一度考えて」には「考えた結果です」、「給与を上げる」には「金銭面の問題ではありません」と、謝意→事実→日付の順で返します。それでも伝えられる状況にないときは、公的な相談窓口や退職代行という選択肢もあります。
- Q退職理由を聞かれなかった場合、こちらから言うべきですか?
- A
無理に詳しく言う必要はありません。「◯月◯日で退職させていただきたい」という意思と日付が伝わっていれば、退職の手続きは進みます。ただし、まったく理由を添えないと唐突な印象になりやすいため、「かねてより考えていた挑戦のため」など前向きな一言だけ添えると角が立ちません。詳細を求められない限り、それ以上は話さなくて構いません。
まとめ|退職理由は「本音」と「伝える建前」を分けて言葉にする
- 退職理由は本音と建前を分けてよい。伝えるのは「会社が改善提案できない理由」を1つだけ
- おすすめの建前はキャリアアップ・家庭の事情。給与・人間関係を出すと引き止めが長引く
- 場面は「切り出す一言→面談→引き止めへの返し」の順。どれも謝意→事実→日付の型で言い切る
- いじめ・ハラスメント・心身の不調が本当の理由なら記録を残し、離職理由の扱いはハローワークに確認
- 例文を用意しても伝えられる状況にない・会社が取り合わないときは、最後の選択肢として相談先がある
退職理由は、本音をぶつける場ではありません。本音は自分の中に持ったまま、伝えるのは会社が改善提案できない前向きな理由を1つ。場面ごとの例文をそのまま使えば、円満に辞められる確率はぐっと上がります。まずは自分の理由を、この記事の型に当てはめて言葉にしてみてください。
あわせて読みたい



