退職を決めたあと、最後に手が止まりやすいのが「書類」です。退職届と退職願はどちらを出すのか、縦書きなのか、手書きでないとダメなのか、封筒は必要なのか——調べるほど細かい作法が出てきて、気持ちがまた重くなります。
この記事では、退職届・退職願・辞表の違い(提出後に撤回できるかまで)、そのまま転記して使える縦書きの文面テンプレ、封筒の書き方と渡し方、手書き・パソコンどちらでもよい根拠、よくあるNGまでを、書類の作法だけに絞ってまとめました。退職を「どう切り出すか」の会話術や、退職前後のハローワーク手続きは、それぞれ別の記事にあります。ここは紙をどう書き、どう届けるかに集中します。


退職届・退職願・辞表の違い(提出後に撤回できるかまで変わる)
3つはよく混同されますが、意味が違います。前提として、退職の意思表示は法律上、必ずしも書面でなければならないわけではありません。それでも書類を出すのは、退職の意思と退職日をはっきり残し、後のトラブルを避けるためです。そのうえで、まず言葉の整理からです。
- 退職願……「退職させてください」と会社にお願いする書類。法的には、会社と合意して辞める「合意退職(合意解約)」の申し込みにあたります。
- 退職届……退職することを会社に届け出る書類。労働者からの一方的な労働契約の解約(辞職)の意思表示とされることが多い書類です。
- 辞表……主に会社役員や公務員が辞任するときに使う言葉。一般の従業員が使うのは通常「退職届」または「退職願」で、辞表を出す場面は多くありません。
いちばんの違いは「出したあと撤回できるか」
この2つは、提出後に気が変わったときの扱いが変わります。厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、退職願について「使用者が承諾するまでの間は、その申し込みを撤回することができます」と説明しています。
もっとも、撤回が会社に不測の損害を与えるような場合は、一般に信義則に反するとして認められないことがあります。また、承諾のタイミングについては、人事の最終決裁権者が退職願を受理した時点で会社の承諾があったとされ、以後の撤回が認められなかった裁判例もあります(大隈鐵工所事件・最判 昭62.9.18)。
一方の退職届は、辞職=一方的な解約の意思表示にあたることが多く、会社に到達すると効力が生じ、原則として一方的には撤回できません(撤回するには会社の同意が必要になります)。
実務的な使い分けはシンプルです。気持ちがまだ揺れているなら「退職願」、もう後戻りしないと決めたなら「退職届」。会社に指定の様式や呼び方があるなら、それに従ってください。

退職届はいつまでに出せばいい?(民法627条1項と就業規則)
書類を「いつ出せば辞められるのか」は、法律と就業規則の2つで考えます。
法律上は「申入れから2週間」
期間の定めのない雇用(正社員など)では、民法627条1項により、退職の申入れから2週間が経過すれば雇用は終了します。会社の承認は要りません。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
出典: e-Gov法令検索「民法」(参照日2026-07-17)
就業規則の「1か月前まで」との関係
実際には、多くの会社が就業規則で「退職は1か月前までに申し出ること」などと定めています。争う理由がないなら、就業規則の期日に合わせて出すのが、いちばんトラブルの少ないやり方です。厚生労働省も、就業規則で退職手続がどうなっているかを確認したうえで、ルールを守った退職手続をとることがトラブル防止に重要だとしています。
ただし、これは実務上「合わせたほうが得」という話であって、就業規則に縛られて辞められないという意味ではありません。厚生労働省は、就業規則などで退職の期間を大幅に伸ばす規定や、会社の許可を条件とするような規定が設けられていても、そのような規定は無効とされる、と説明しています(高野メリヤス事件・東京地判 昭51.10.29)。就業規則の日数はあくまで目安で、退職そのものを会社が拒否できるわけではありません。
退職届に書く「退職日」の決め方
退職届に書く退職日は、就業規則の申出期限に引き継ぎの日数を足して逆算します。ここで注意したいのが、最終出社日と退職日は別だという点です。有給休暇が残っている場合は、最後に出社する日のあとに有給を消化し、その最終日が退職日になります。退職届には、最終出社日ではなく「在籍としての最終日=退職日」を書きます。転職先の入社日が決まっているなら、そこから逆算して退職日を決めると、無職の期間が生まれずに済みます。
とはいえ個別の事情で判断が分かれる部分もあります。会社と争いになりそうなら、自己判断で押し切らず、公的な相談窓口や弁護士に相談してください。なお、退職を「誰に・いつ・どう切り出すか」という会話の進め方は、次の記事にまとめています。

退職届の書き方|縦書きの基本フォーム(そのまま転記できるテンプレ)
退職届・退職願は、縦書きで書くのが慣行です。横書きでも問題はありませんが、指定がなければ縦書きが無難です。入れる要素と順番は次のとおりです。
- 表題(「退職届」または「退職願」)
- 書き出しの「私事、」または「私儀(わたくしぎ)」
- 本文(退職の理由・退職日)
- 届出年月日
- 所属部署・氏名(必要なら押印)
- 宛名(会社名・代表者名+「殿」)
退職届
私事、
このたび一身上の都合により、来る令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。
令和〇年〇月〇日
〇〇部 山田 太郎 ㊞
株式会社〇〇〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 殿
退職願にする場合は、本文の言い切りを「お願い」に変えます。「このたび一身上の都合により、来る令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、お願い申し上げます。」とすれば退職願になります。表題も「退職願」にします。
縦書きの配置で押さえる2点
- 表題は1行目の中央上部に、本文より大きめに書きます。「私事、」は行の下のほうに寄せて書くのが慣行です。
- 自分の氏名は行の下部(下寄せ)、宛名の会社・代表者名は上部(上寄せ)にします。宛名は自分より格上として、氏名より左の位置に最後に書きます。
退職理由は、自己都合なら「一身上の都合により」で十分です。具体的な不満や事情は書きません(この点は後半のNGでもう一度触れます)。退職日は、就業規則の期限と引き継ぎの日数をふまえ、上司と相談して決めた日を書きます。
手書き・パソコンどちらでもいい|様式に決まりはない
「退職届は手書きでないと無効なのでは」と心配する人が多いのですが、そうではありません。退職届・退職願の作成方法について、法律上の定めはありません。民法627条は退職の「申入れ」を求めているだけで、書面か口頭か、手書きかパソコンかまでは限定していません。極端にいえば、退職の意思表示は口頭でも成立します。それでも書面にするのは、「言った・言わない」を避け、証拠を残すためです。
したがって、手書きでもパソコン作成でも、どちらでもかまいません。ただし、会社の就業規則で様式や提出方法が指定されている場合(専用フォームがある会社もあります)は、それに従ってください。
- 署名(氏名)だけは自筆にしておくと、本人の意思であることが明確になり無難です。
- 押印は法律上必須ではありませんが、会社の慣行で求められることがあります。求められたら押す、という程度の理解で十分です。
- 手書きの場合、用紙は白のA4またはB5の無地。筆記具は黒のボールペンか万年筆を使い、消えるボールペンや鉛筆は使いません。
パソコンで作る場合の文面テンプレ(横書き)
パソコンで作成するときは、横書きが一般的です。縦書きと入れる要素は同じで、配置だけが変わります。上に日付と宛名、下に自分の所属・氏名を置き、本文を中央に書きます。印刷したうえで、署名部分だけを自筆にしておくと安心です。
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 殿
〇〇部 山田 太郎
退職届
私事、
このたび一身上の都合により、来る令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。
以上
横書きでは、日付と宛名を上に、自分の氏名をその下に置き、表題「退職届」は本文の直前に中央寄せで入れます。末尾に「以上」を添えると体裁が整います。縦書き・横書きのどちらでも、会社に専用フォームがある場合はそちらを優先してください。
封筒の書き方・三つ折り・渡し方
退職届は、封筒に入れて渡すのが基本です。封筒は白の無地で、郵便番号の枠がないものを選びます。サイズは、用紙がB5なら長形4号、A4なら長形3号が入ります。
- 表面……中央に「退職届」(または「退職願」)とだけ書きます。
- 裏面……左下に所属部署と氏名を書きます。
- 折り方……三つ折りが基本です。用紙の下3分の1を上に折り、次に上3分の1を折ります。封筒から出したときに「退職届」の書き出しがすぐ読める向きで入れます。


渡し方は「直属の上司に手渡し」が基本
退職届は、まず口頭で退職の意思を伝えたうえで、直属の上司に手渡すのが基本です。「お忙しいところ恐れ入ります。退職届をお持ちしました」と一言添えて渡します。人が大勢いる前ではなく、落ち着いて話せる場で渡すようにします。
郵送は原則として避けます。ただし、対面が難しい事情がある場合(すでに出社していない、体調が理由で出社できない等)は、簡単な添え状を付けて郵送する方法もあります。添え状には、退職届を同封した旨と、これまでの感謝を一言添えれば十分です。郵送する場合も、まずは電話やメールで退職の意思を伝えてから送るのが順序です。
退職届でよくあるNGと「一身上の都合」の落とし穴
最後に、提出前に確認したいNGを整理します。
- 退職理由を長々と具体的に書く……自己都合なら「一身上の都合により」で十分です。不満やトラブルの詳細を書くと、受け取る側ともめる火種になります。
- 退職日を相談せず一方的に書く……就業規則の期限や引き継ぎを無視した日付を書くと、調整が難航します。日付は上司と相談してから書きます。
- 修正液・修正テープで直す……書き間違えたら、新しい用紙に書き直します。訂正跡のある正式書類は印象がよくありません。
- 提出先を間違える……いきなり社長や人事に出すのではなく、まず直属の上司に渡すのが原則です。
- 提出前に周囲へ広める……同僚に話したりSNSに書いたりすると、上司より先に噂が伝わり、切り出しづらくなります。
自己都合の退職では「一身上の都合により」と書くのが慣行です。しかし、実際は会社側の事情(退職の働きかけ、雇い止め、ハラスメントによる退職など)なのに、会社から「一身上の都合と書いてほしい」と求められることがあります。
退職が「会社都合」か「自己都合」かによって、退職後の失業給付の扱いが変わり得ます。納得できないまま「一身上の都合」と書いて提出する前に、まずはハローワークや労働局、弁護士などの公的な窓口に相談してください。書いてしまってから覆すのは大変です。
退職前・退職後にハローワークでできることは、次の記事にまとめています。

よくある質問(FAQ)
- Q退職届と退職願、どちらを出せばいいですか?
- A
もう辞めると決めているなら「退職届」、まだ気持ちが揺れているなら「退職願」が向いています。退職願は会社が承諾するまで撤回できる余地がありますが、退職届は会社に到達すると原則として一方的には撤回できません。会社に指定の様式がある場合は、それに従ってください。
- Q退職届は手書きとパソコン、どちらがいいですか?
- A
どちらでもかまいません。退職届の作成方法に法律上の決まりはありません。パソコンで作成しても有効ですが、署名(氏名)だけは自筆にしておくと本人の意思が明確です。会社の就業規則で様式や提出方法が指定されている場合は、それに従ってください。
- Q退職理由は詳しく書くべきですか?
- A
自己都合の退職なら「一身上の都合により」と書けば十分で、詳しい理由を書く必要はありません。ただし、実際は会社側の事情による退職なのに「一身上の都合」と書くよう求められた場合は、失業給付の扱いに関わることがあるため、書く前にハローワークや労働局、弁護士に相談してください。
- Q退職届はいつまでに出せばいいですか?
- A
期間の定めのない雇用(正社員など)では、民法627条1項により、退職の申入れから2週間が経過すれば雇用は終了します。会社の承認は要りません。ただし就業規則で「1か月前まで」と定める会社が多く、実務では就業規則の期日に合わせて出すのがトラブルの少ないやり方です。
- Q一度出した退職届は撤回できますか?
- A
退職届(辞職の意思表示)は、会社に到達すると原則として一方的には撤回できず、撤回には会社の同意が必要です。一方、退職願(合意退職の申し込み)は、会社が承諾するまでは撤回できる余地があります。ただし個別の事情で判断が分かれるため、撤回したいのに認めてもらえない場合は、公的な相談窓口や弁護士に相談してください。
まとめ|退職書類は「様式より、正しく届くこと」
- 退職願は撤回できる余地があり、退職届は原則撤回できない。決心がついたら退職届、揺れているなら退職願
- 法律上は手書き・パソコンどちらでもよい。様式に決まりはなく、会社の指定様式があればそれに従う
- 提出期日は民法627条1項で「申入れから2週間」。就業規則の「1か月前」に合わせるのが無難だが、退職自体を会社が拒否できるわけではない
- 封筒は白の無地・三つ折り。直属の上司に手渡しが基本
- 会社都合なのに「一身上の都合」と書かされそうなときは、書く前に公的窓口へ相談
退職書類でいちばん大事なのは、凝った様式ではなく、退職の意思が正しく相手に届くことです。ここまでの型どおりに書けば、書類で迷う時間はもう必要ありません。あとは、決めた退職日に向けて引き継ぎを進めるだけです。
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