「退職を決めたけれど、残っている有給はちゃんと使い切れるのかな」——これは、辞めると決めた人の多くがつまずくところです。結論から言うと、有給休暇(年次有給休暇)を取ることは労働基準法で認められた労働者の権利で、退職時であっても会社は原則として拒否できません。ただし、うまく使い切るには残日数の確認とスケジュールの組み方に少しコツがいります。この記事では、残日数の確認から、拒否・引き延ばしにあったときの対処まで、厚生労働省の公式情報をもとに順に整理します。
退職時に有給は消化できる?会社は原則として拒否できません
まず大前提です。年次有給休暇は、労働基準法第39条で定められた労働者の権利です。同条第5項は「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と定めています。つまり、いつ有給を取るかを決めるのは働く本人であり、会社は労働者が指定した日に有給を与えるのが原則です。
これは退職するときも変わりません。退職が決まっているからといって、残った有給の消化を会社が一方的に拒む法的な根拠はありません。厚生労働省のパンフレットも、年次有給休暇は「働く方の心身のリフレッシュを図ることを目的として、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされています」と説明しています。
出典: e-Gov法令検索「労働基準法」第39条、厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(PDF)(2026-07-17参照)
この記事で扱うこと/扱わないこと
【扱う】残日数の確認方法/スケジュールの組み方/会社は拒否できるのかの正確な線引き/渋られたときの相談先/買い取りの考え方
【扱わない】あなたが何日消化できるかの個別判定、有給の賃金計算や買い取り金額の試算。これらは勤務実態や就業規則によって変わり、この記事では計算しません。個別のケースは会社の就業規則と、後述の公的な相談窓口で確認してください。


まず「有給の残日数」を確認する
スケジュールを組む前に、自分にあと何日の有給が残っているかをはっきりさせます。ここが曖昧なまま「なんとなく2週間くらい」と動くと、使い残したり、逆に足りない前提で退職日を決めてしまったりします。
法律で決まっている付与日数(勤続年数別)
そもそも有給は、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、その間の全労働日の8割以上を出勤すると、最初に10日が付与されます(労働基準法第39条第1項)。その後は勤続年数に応じて増えていきます。厚生労働省の資料にある原則の付与日数は次のとおりです。
| 継続勤務年数 | 付与日数(その年に新しく付与) |
|---|---|
| 6か月 | 10日 |
| 1年6か月 | 11日 |
| 2年6か月 | 12日 |
| 3年6か月 | 14日 |
| 4年6か月 | 16日 |
| 5年6か月 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
これは週5日勤務などフルタイムを想定した原則です。パートタイムなど週の所定労働日数が少ない人は、日数に応じて比例付与されます(週4日以下または年間216日以下などが対象)。実際に自分に何日付与されているかは会社ごとの就業規則にもよるため、上の表はあくまで法定の目安として見てください。
前年度分の繰り越しに注意|有給の時効は2年
見落とされがちなのが繰り越しです。年次有給休暇の請求権の時効は2年で、前年度に使わなかった有給は翌年度に繰り越されます。つまり退職時に残っているのは、多くの場合「今年度に付与された分+前年度からの繰り越し分」の合計です。「今年の分だけ」と思い込んで少なく見積もると、権利を無駄にしかねません。
出典: 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(PDF)付与日数・繰越しの項(2026-07-17参照)
自分の残日数を確認する3つの方法
- 給与明細を見る:明細に有給の残日数が印字される会社が多くあります。まず手元の直近の明細を確認しましょう
- 勤怠管理システムで確認する:勤怠システムを導入している会社なら、自分のアカウントから残日数を確認できることがあります
- 就業規則を読む・人事(労務)に確認する:付与のタイミング(基準日)や繰り越しの扱いは就業規則に書かれています。それでも分からなければ、人事や労務の担当者に「有給の残日数を教えてください」と聞くのが確実です
確認は「切り出す前」に:退職を申し出るより前に残日数を把握しておくと、後のスケジュール交渉で数字を根拠に話せます。口頭でのやり取りだけだと会社と認識がずれることがあるため、残日数が分かる明細やシステム画面は控えておくと安心です。
有給消化のスケジュールの組み方|最終出社日と退職日を分けて考える
残日数が分かったら、スケジュールを組みます。ここで大事なのが「最終出社日」と「退職日」を分けて考えることです。
最終出社日と退職日は別物
- 退職日:雇用契約が終わる日。この日まで在籍しています
- 最終出社日:実際に出社して働く最後の日。ここから退職日までの間に有給を当てはめます
たとえば残っている有給が10日あり、退職日を月末に設定するなら、最終出社日を退職日のおよそ10営業日前に置き、その後の出勤予定日を有給で埋めるのが基本の形です。こうすると、最終出社日以降は出社せずに在籍したまま退職日を迎えられます。有給は「所定労働日(本来出勤するはずだった日)」に当てるものなので、もともと休みの土日祝はカウントしません。
引き継ぎと両立させる順番
有給をまとめて取る場合、いちばんもめやすいのが引き継ぎです。最終出社日をゴールにして、そこまでに引き継ぎを終える段取りを逆算します。
- 退職日と残日数から最終出社日を仮決めする
- 最終出社日までに終える引き継ぎ項目を洗い出す(担当業務・取引先・資料の場所・マニュアル化)
- 引き継ぎ資料を作り、後任や上司に共有する
- 最終出社日の翌日から退職日までを有給で埋める
「引き継ぎが終わらないから有給は無理」と言われないためにも、引き継ぎを先に片づけてから有給に入るこの順番が現実的です。引き継ぎ資料を形に残しておくと、有給消化中に問い合わせが来ても対応の負担が減ります。
「使い切る」か「分散」か:退職日までにまとめて消化するのが一般的ですが、業務の都合上どうしても難しいときは、最終出社日までの間に有給を数日ずつ挟む形もあります。どちらにしても、取れる日数と退職日をセットで決めるのがポイントです。なお、有給を全部使い切れるかは残日数と退職日の設定次第で、この記事は「必ず全部消化できる」とお約束するものではありません。
そもそも「辞めたい」と切り出すこと自体に迷いがある段階なら、切り出し方の準備と台本を別記事にまとめています。有給の話は、退職を伝えるときにセットで相談するとスムーズです。

会社は原則拒否できない。ただし「時季変更権」はある
ここは正確に理解しておきたいところです。会社は有給を原則拒否できませんが、法律上まったく口を出せないわけではありません。会社側には「時季変更権」という仕組みがあります。
いつ取るかを決めるのは労働者(時季指定権)
前述のとおり、労働基準法第39条第5項の本文は「使用者は…有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と定めています。いつ取るかを指定する権利(時季指定権)は労働者にある、というのが出発点です。
時季変更権とは(第39条第5項ただし書き)
その同じ第5項には、続けてただし書きがあります。「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」——これが時季変更権です。厚生労働省の解説は、これを「同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等」と説明しています。
ポイントは、時季変更権は「有給を取らせない」権利ではなく「別の日にずらす」権利だということです。会社ができるのは、あくまで他の時季に振り替えることまでです。
退職時は、時季変更権を行使する余地が実務上ほとんどない
ここが退職時特有の話です。時季変更権は「他の時季に与える」ための仕組みでした。ところが退職する人の場合、退職日を過ぎれば有給を取れる日はもう残っていません。振り替える先の「他の時季」が存在しないのです。
そのため、退職日までに消化を請求された有給について、会社が時季変更権を使って別の日にずらすことは、実務上ほとんどできないと考えられています。時季変更権は在職を続ける人に対して「繁忙期を避けて別の日に」と使うのが本来の形で、辞めていく人には振り替え先がないため機能しにくい、という理屈です。「繁忙期だから有給は認めない」と言われても、それは時季変更権の正しい使い方ではありません。
出典: e-Gov法令検索「労働基準法」第39条第5項、厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(PDF)時季変更権の項(2026-07-17参照)


拒否・渋られたときの段階的な対処
権利だと分かっていても、実際に「認めない」「引き継ぎが終わるまで無理」と渋られることはあります。いきなり大ごとにするのではなく、段階を踏んで対処するのが現実的です。
STEP1|記録の残る形で、もう一度きちんと請求する
まずは口頭だけで終わらせず、メールや書面など記録の残る形で有給の取得日を請求します。「退職日は◯月◯日、最終出社日は◯月◯日、その翌日から退職日までの所定労働日に有給を取得します」と、残日数の根拠とあわせて具体的な日付で伝えます。記録が残っていれば、後で「言った・言わない」になりにくく、相談窓口に持ち込むときの材料にもなります。
STEP2|総合労働相談コーナー・労働基準監督署に相談する(無料)
会社が応じないときは、公的な相談窓口を使います。総合労働相談コーナーは、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内など378か所に設置されており、予約不要・利用は無料です。解雇や賃金の引下げ、いじめ・嫌がらせなどあらゆる分野の労働問題を対象としていて、有給の相談もここに含まれます。
有給を与えないことは労働基準法違反にあたり得るため、労働基準監督署に相談・申告する方法もあります。まずは相談コーナーで状況を話し、どこに何を求めればよいかを整理してもらうとよいでしょう。
出典: 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(2026-07-17参照)
STEP3|弁護士・弁護士対応の退職代行を検討する
それでも解決せず、有給消化や退職の条件について会社と交渉する必要があるときは、弁護士への相談が選択肢になります。会社との「交渉」は、法律上、弁護士(または弁護士法人)でなければ代理して行えません。自分で会社と話すのが難しい状況なら、次の章のような弁護士対応のサービスを使う方法もあります。
順番を守るとこじれにくい:STEP1(記録を残して請求)→ STEP2(無料の公的窓口)→ STEP3(弁護士)の順で進めると、いきなり対立せずに済みます。多くの場合はSTEP1・STEP2までで動きが出ます。心身が限界に近く「会社とやり取りすること自体がつらい」ときは、無理をせず早めに窓口へ相談してください。
そもそも心身が疲れきっていて、退職の手続きに向き合う気力が出ないという段階なら、まず立て直すための考え方をこちらにまとめています。

有給の「買い取り」は原則なし。例外はあるが金額は扱いません
「消化しきれない有給を、お金に換えてもらえないか」と考える人もいます。ここも正確に押さえましょう。
有給休暇は本来「休むため」の権利です。あらかじめ「有給を買い取るから休まないでほしい」と約束することは、休ませないことにつながり法の趣旨に反するため、原則として認められません。会社に買い取りを義務づける法律もありません。つまり買い取りは原則なし、というのが基本です。
一方で、退職時にどうしても消化しきれず残ってしまった有給については、会社が任意で買い取ることまでは禁止されていません(あくまで会社の判断であって、請求すれば必ず買い取ってもらえるものではありません)。買い取りの有無や単価は会社の就業規則・慣行によって異なるため、本記事では金額の試算は行いません。まずは買い取りをあてにせず、できる限り消化しきるスケジュールを組むことを優先し、それでも残る分の扱いは会社に確認してください。
よくある質問
- Q退職するとき、会社は有給消化を拒否できますか?
- A
原則として拒否できません。労働基準法第39条第5項は「使用者は…有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と定めており、いつ取るかを決めるのは労働者です。会社には別の日にずらす「時季変更権」がありますが、これは「他の時季に与える」ための仕組みで、退職する人にはずらす先の日がないため実務上ほとんど使えません。「辞める人だから」「繁忙期だから」は有給を与えない正当な理由にはなりません。
- Q引き継ぎが終わらないと有給は取れませんか?
- A
有給を取る権利は引き継ぎの完了を条件にしていません。ただ、現実にはトラブルを避けるため、最終出社日までに引き継ぎを終える段取りを組むのが得策です。退職日と残日数から最終出社日を逆算し、それまでに引き継ぎ項目を洗い出して資料化・共有し、最終出社日の翌日から退職日までを有給で埋める、という順番がスムーズです。
- Q有給の残日数はどこで確認できますか?
- A
まず給与明細を確認しましょう。残日数が印字される会社が多くあります。勤怠管理システムを導入していれば自分のアカウントから確認できることもあります。付与のタイミングや繰り越しの扱いは就業規則に書かれているため、分からなければ人事・労務の担当者に聞くのが確実です。有給の時効は2年なので、前年度からの繰り越し分も残っている点に注意してください。
- Q消化しきれない有給は買い取ってもらえますか?
- A
有給は本来休むための権利なので、「買い取るから休まないで」とあらかじめ約束することは原則認められません。会社に買い取りを義務づける法律もなく、買い取りは原則ないと考えてください。ただし、退職時に消化しきれず残った分を会社が任意で買い取ること自体は禁止されていません。買い取りの有無や金額は会社の就業規則・慣行によって異なります。まずは買い取りをあてにせず、できるだけ消化しきるスケジュールを優先し、残った分の扱いは会社に確認しましょう。
まとめ|有給消化は「権利」。段取りと記録で守れる
この記事の要点
・有給を取るのは労働基準法第39条で認められた労働者の権利。退職時も会社は原則拒否できない
・まず残日数を確認(給与明細・勤怠システム・就業規則/時効は2年で繰り越し分もある)
・最終出社日と退職日を分け、引き継ぎを先に片づけてから有給で埋める
・会社の「時季変更権」は別の日にずらす権利。退職時はずらす先がなく実務上ほとんど使えない
・渋られたら「記録を残して請求→総合労働相談コーナー・労基署→弁護士」の順で対処
・買い取りは原則なし。退職時に残った分の任意買い取りはあり得るが金額は会社次第
有給消化は「お願い」ではなく「権利」です。とはいえ、感情的にぶつかるより、残日数という数字と記録を手元に、段取りよく請求するほうが結果的にうまく進みます。退職後の失業給付やハローワークでの手続きは在職中から準備できることもあるので、あわせて確認しておくと安心です。
退職後の公的な手続き(ハローワーク・失業給付など)については、こちらで整理しています。

ここまでの段階的な対処をしても会社が有給消化に応じない、あるいは心身の状態や関係性から自分で会社と交渉できる状況にない——そんなときは、有給消化の交渉まで任せられる弁護士対応の退職代行が選択肢になります。会社との交渉は弁護士でなければ代理できないため、有給や退職条件の交渉まで必要なケースでは、弁護士が対応するサービスかどうかを確認してください。
あわせて読みたい




