内定の連絡はもらったのに、条件が書かれた書面がいつまでも届かない。あるいは入社日を迎えたのに、渡されたのは業務マニュアルだけだった。そんな状態で「催促していいものか」と迷っている方は少なくありません。
この記事では、労働条件通知書をもらっていないときに、いつ・誰に・どう伝えればよいかを段階を追ってまとめました。そのまま使える文例と、社内で解決しない場合の公的な相談先まで扱います。書面の基本と記載項目は、別の記事で整理しています。

「届いていない」と決める前に確認したいこと
連絡を入れる前に、まず手元を見直してみてください。問い合わせたあとで「送っていました」と返ってくると、次の会話が進めにくくなります。
電子で送られていないか
最初に見るのはメールの受信箱です。迷惑メールフォルダと、添付ファイルつきのメールを見返してみましょう。件名が「入社手続きのご案内」など事務的で、本文ではなく添付のPDFに条件が書かれていることがあります。採用管理システムのマイページに掲示されていることもあります。
別の名前の書類にまとめられていないか
「労働条件通知書」という名前でなくても、条件そのものは渡されていることがあります。多いのは「雇用契約書」「労働条件通知書兼雇用契約書」「採用条件確認書」といった名称です。署名を求められた書類に賃金や労働時間、勤務地が書かれていれば、名称は違っても条件は示されています。
逆に、内定通知書に「詳細は追ってご連絡します」としかない場合や、口頭の説明を受けただけの場合は、書面としては手元に何もない状態です。あとから食い違いが起きたときに、確かめる材料がありません。

探しましたが、やっぱりどこにもありませんでした……。催促したら、感じの悪い人だと思われませんか?

そこは心配いりません。条件書面の交付は会社側が果たすべき手続きですから、確認すること自体はごく自然な行動です。伝え方さえ整えれば、印象を損なうことはまずありません。
法令ではいつ渡すことになっているのか
条文にあるのは「労働契約の締結に際し」
労働基準法15条1項は、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。そのうち一定の事項は、厚生労働省令で定める方法によることとされています。
押さえておきたいのは、条文に「内定から◯日以内」といった日数が書かれていない点です。定められているのは「労働契約の締結に際し」という時点です。日数の基準がない以上、催促の際も「◯日経ったのに」ではなく、入社日から逆算した準備の都合を切り口にするほうが話が噛み合います。
書面で示す必要がある項目と、そうでない項目
明示すべき事項のすべてが書面を要するわけではありません。労働基準法施行規則5条は、明示事項を列挙したうえで、書面などの方法によるべき範囲を絞り込んでいます。
- 労働契約の期間に関する事項
- 有期契約を更新する場合の基準(更新上限がある場合はその内容を含む)
- 就業の場所および従事すべき業務(変更の範囲を含む)
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇など
- 賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期(昇給に関する事項を除く)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
一方、退職手当、賞与、安全衛生、休職などは、定めがある場合に明示すべき事項とされていますが、書面による方法までは求められていません。手元の書面に賞与や退職金の記載がないこと自体は、直ちに不備を意味しません。
電子で受け取るのは「本人が希望した場合」
施行規則5条4項は、原則を書面の交付と定めたうえで、労働者がそれを希望した場合に限ってファクシミリや電子メール等による方法を認めています。電子メール等は、受け取った側が記録を出力して書面を作成できるものに限られます。紙で受け取りたいならそう伝えてかまいませんし、画面でよい方もPDFなど保存できる形かは確認しておきましょう。
2024年4月から明示事項が増えている
2024年4月1日から、明示すべき事項が追加されました。すべての労働者に対しては就業場所・業務の変更の範囲、有期契約の方には更新上限の有無と内容、無期転換を申し込める契約更新のタイミングでは無期転換の申込機会と転換後の労働条件が加わっています。
転職者に影響が大きいのは「変更の範囲」です。古い様式のままだとこの欄が空白で渡されることがあり、転勤の可能性を確かめたい方は、ここを起点に質問すると感情の話になりません。
段階別の対処|いまどこにいるかで動き方が変わる
①内定は出たが、入社前でまだ届かない
この段階がいちばん動きやすい時期です。まだ内定承諾の返事をしていないなら、返事と条件確認をセットにするのが最も自然でしょう。「前向きに考えているので、条件を確認したうえでお返事したい」という形なら、催促ではなく前向きな確認になります。オファー面談が設定されている場合は、その場が条件をすり合わせる機会になります。

②入社日を迎えたのに交付されない
入社日から数日は、初日の書類手続きにまとめて渡されることが多い時期です。誓約書などと一緒に配られることもあるため、初日の書類一式を最後まで確認してから判断しましょう。
それでも渡されないなら、相手を人事や総務に切り替えるのが有効です。採用の窓口だった方は、入社後の手続きに関わっていないことがあります。「誰に聞けばよいか」を最初に確認するだけで、解決までの時間が短くなります。
③入社して数週間たっても出てこない
ここまで来ると、単なる遅れではなく交付の運用そのものがない可能性が出てきます。口頭で「あとで出します」と言われたら、その内容を自分の言葉でメールにして送っておきましょう。圧をかけるためではなく、いつ・誰に・何を確認したかを残すためです。
- 依頼した日付と、伝えた相手の部署・役職
- 返ってきた回答(「準備中」「様式がない」など)
- 口頭で説明された条件の数字(基本給、勤務時間、休日など)
- 求人票や募集要項の画面保存(掲載終了後は見られなくなります)
角を立てずに催促する|そのまま使える文例
伝え方の3つのコツ
まず、法令を持ち出さないこと。「労働基準法で決まっていますよね」と切り出すと、事務的な依頼が対立の入口に変わります。根拠は自分の中に置いておけば十分です。
次に、こちらの目的を添えること。「家族に説明したい」「現職の退職手続きを進めたい」など理由があると、相手も動きやすくなります。最後に、期限を切らず時期を尋ねる形にすること。「いつまでに送ってください」ではなく「いつごろお受け取りできそうでしょうか」と聞けば、返答そのものが次の行動の目安になります。
文例1|内定承諾の返事の前にお願いする
件名:内定のお礼と、条件確認のお願い(氏名) このたびは内定のご連絡をいただき、ありがとうございました。 前向きに検討しております。 つきましては、労働条件を記載した書面をお送りいただくことは可能でしょうか。 家族にも説明したうえでお返事をしたいと考えております。 お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
「前向きに検討しています」を先に置くのが要点です。確認したい理由が、迷いではなく手続きのためであると伝わります。
文例2|承諾後・入社前に催促する
件名:入社手続きについてのご確認(氏名) お世話になっております。◯月◯日入社予定の◯◯です。 労働条件通知書につきまして、いつごろお受け取りできそうでしょうか。 現職の退職手続きを進めるうえで、勤務地と勤務時間を確認しておきたく存じます。 すでにご送付いただいている場合は、行き違いをお詫びいたします。
末尾の「行き違いをお詫びします」が効きます。相手に落ち度を認めさせる形にならないため、返信のハードルが下がります。
文例3|入社後に人事へ確認する
件名:労働条件通知書の受け取りについて(◯◯部・氏名) ◯月◯日に入社いたしました◯◯です。 入社時の書類を確認しておりますが、労働条件を記載した書面が 見当たらないようです。私の受け取り漏れでしたら申し訳ありません。 ご確認のうえ、受け取り方法をご教示いただけますでしょうか。 PDFなど保存できる形式であれば、データでのご送付でも差し支えありません。
入社後は相手を責めない書き方が特に効きます。自分の受け取り漏れかもしれない、という形にしておくと担当者が確認しやすくなります。
文例4|転職エージェント経由で頼む
件名:株式会社◯◯様の労働条件通知書について(氏名) お世話になっております。◯◯です。 ご紹介いただいた株式会社◯◯様より、労働条件を記載した書面をまだ受け取れておりません。 直接お伺いすると催促のようになってしまうため、 ご状況を確認していただくことは可能でしょうか。 入社日までに勤務地と給与の内訳を確認しておきたいと考えております。
エージェント経由で応募した方は、担当者に間に入ってもらう方法があります。企業との窓口をふだんから担当しているぶん、催促に聞こえない言い方を心得ていることが多く、自分で伝えるより角が立ちにくい方法です。
その場で聞ける関係なら、口頭のほうが早いこともあります。「条件が書かれた紙は、いつごろいただけますか」と手続きの順番を尋ねる形にすれば、相手も事務の話として答えられます。回答があったら、短くメールにして残しておきましょう。
書面が求人票や面接の説明と違ったら
まず差分を書き出す
違和感をぶつける前に、どこがどう違うのかを項目ごとに並べてみてください。総額は同じでも内訳が違うのか、固定残業代の扱いが変わったのか、勤務地の表記が広くなったのか。整理すると、確認で済む項目と話し合いが必要な項目が分かれます。
多いのは誤りではなく表現の粒度の違いです。求人票の「月給28万円以上」が、書面では基本給と手当に分かれているだけ、という場合もあります。
求人票は「募集時の条件」、書面は「契約の条件」
求人票に書かれているのは募集の段階で示された条件であり、実際に結ばれる労働契約の内容とは、制度上は別の場面の話として整理されています。募集時の明示については職業安定法の側にルールがあり、こちらも2024年4月1日から就業場所・業務の変更の範囲などが追加されました。
「求人票と違うから直ちに違法だ」と決めつけて話を始めると、噛み合わないまま関係だけが悪くなることがあります。求人票との差は、まず説明を求める材料と考えるのが実務的です。
明示された条件と事実が違うときの定め
労働基準法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合に、労働者は即時に労働契約を解除することができると定めています。同条3項では、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費を負担しなければならないとされています。施行規則5条2項も、明示すべき労働条件を事実と異なるものとしてはならないと定めています。
手元の状況が15条2項にあたるかどうかは、示された条件と実態を突き合わせて個別に判断される領域です。この記事は条文の内容をお伝えするところまでにとどめます。該当するか確かめたい場合は、次章の公的な窓口で状況を説明してください。相談は無料で、状況を伝えたうえで、次にどの窓口や手続きが向いているかを案内してもらえます。
それでも交付されないときの相談先
社内で確認しても動きがないときは、外部の窓口を使う段階です。いきなり最終手段に飛ばず、順を追うのが安全です。
総合労働相談コーナー
最初の外部窓口としてなじみやすいのが、厚生労働省の総合労働相談コーナーです。各都道府県労働局や労働基準監督署内など全国378か所(2026年7月時点)に設置され、労働条件、解雇、募集・採用など分野を問わず相談を受け付けています。
利用は無料で、予約は不要とされています。面談のほか電話でも対応しており、学生や就活生からの相談も受け付けているため、これから働く方でも利用できます。土日祝と年末年始(12月29日から1月3日)は閉庁している点にご注意ください。
なお、労働基準法などの法律に違反の疑いがある場合は、労働基準監督署など行政指導の権限を持つ部署に取り次ぐこととされています。会社への連絡が気がかりな場合は、どこまでを希望するのかを相談の最初に伝えておくと、進め方をすり合わせながら利用できます。
労働条件相談ほっとライン
日中に電話ができない方には、厚生労働省の委託事業である労働条件相談ほっとラインがあります。フリーダイヤル0120-811-610で、受付は平日17時から22時、土日祝は9時から21時(12月29日から1月3日を除く)。無料で、匿名でも相談できるとされています。法令や裁判例を踏まえた相談対応と、関係機関の案内を行う窓口です。ここから会社へ指導が行われるものではないため、状況を整理したい段階での利用に向いています。
労働基準監督署
労働基準監督署は、賃金、労働時間、解雇などの法令違反に関する相談を扱う機関です。ただ、監督署への相談は会社にとって行政の関与を意味します。これから長く働く会社なら、社内での確認を尽くしてからのほうが落ち着いた結果になりやすいのも事実です。社内での確認、エージェント経由、総合労働相談コーナーと踏んだうえで検討しましょう。
弁護士に相談するかどうかの線引き
書面が交付されないという一点だけなら、多くは社内の確認か公的窓口の範囲で動きます。この記事では、書面が届かないことを理由に弁護士へ依頼することはおすすめしません。一方、賃金が支払われていない、退職を申し出たが応じてもらえないなど、金銭や契約そのものの争いになっている場合は個別の法律判断が必要な領域です。どちらに進むべきかも、まず無料の窓口で聞いてかまいません。
交付されないこと自体を入社判断にどう使うか
条件を隠したくて出さない会社ばかりではありません。人事の担当が一人しかいない、採用が久しぶりで様式が古いままといった事情で止まっていることも多くあります。見るべきは遅れたことよりも依頼したあとの反応です。「確認します」と言って期日を示してくれるか、話をそらされるか。この違いのほうが、入社後の働きやすさをよく映します。
- 複数回依頼しても、期日の目安すら示されない
- 「うちは昔から出していない」と説明で終わらせようとする
- 確認したこと自体を、疑っていると受け取られる
- 入社日が近いことを理由に、確認を先送りするよう促される
当てはまるからといって、直ちに辞退すべきという話ではありません。ただ、入社前に確認しにくい相手は、入社後にはもっと聞きにくくなる点は覚えておいて損はありません。



正直、書面がないくらいで大げさかなとも思ってしまいます。

困るのは、たいていあとになってからです。残業代の計算や、勤務地の変更を告げられたとき、手元に基準がないと話し合いの出発点がありません。
よくある質問
- Q催促すると、入社前から印象が悪くなりませんか?
- A
条件を書面で確認することは会社側の手続きに沿った依頼ですので、それ自体で評価が下がることは考えにくいところです。気になる場合は依頼の理由を添えると印象が変わります。「現職の退職手続きを進めたいため」の一言で、催促ではなく準備の相談として受け取られます。
- Q契約社員やパートでも、同じように交付されるものですか?
- A
労働基準法15条1項は雇用形態で区別せず、労働契約の締結に際しての明示を定めています。有期契約の場合はむしろ明示事項が多く、更新の基準や更新上限の有無も対象に含まれます。短期の契約だからという理由で省略されるものではありません。
- Q「うちは昔から出していない」と言われました。
- A
その場で追及せず、言われた内容をメールにして残しておくことをおすすめします。厚生労働省はモデルとなる様式を公開しており、様式がないことは理由になりません。社内でこれ以上進まないと感じたら、総合労働相談コーナーで状況を伝える段階です。
- Q交付されないことに、会社への罰則はありますか?
- A
労働基準法120条1号は、15条1項に違反した者を30万円以下の罰金に処する旨を定めています。ただし実際に適用されるかは行政や司法の判断によります。この事実を催促の道具として持ち出すことはおすすめしません。相手が身構えてしまい、かえって書面が出てくるまでの時間が延びるためです。
まとめ|まずは1通のメールから
- 催促の前に、メール・マイページ・別名の書類を見直す
- 条文にあるのは「労働契約の締結に際し」。日数ではなく入社日を基準に話す
- 電子での受け取りは本人が希望した場合の方法。保存できる形かを確かめる
- 伝え方は、法令を持ち出さず、理由を添えて、期限ではなく時期を尋ねる
- 求人票との差は、まず説明を求める材料として扱う
- 社内で進まないときは総合労働相談コーナーなど無料の窓口へ
- 見るべきは遅れたことより、依頼したあとの反応
労働条件通知書が手元にない状況は、多くの場合、伝え方を整えた1通のメールで動きます。まずは応募時の求人票を保存し、文例をご自身の言葉に直して送ってみてください。
この記事が参照した公的情報
- 労働基準法 第15条・第120条/e-Gov法令検索(2026年7月21日参照)
- 労働基準法施行規則 第5条/e-Gov法令検索(2026年7月21日参照)
- 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります(厚生労働省)(2026年7月21日参照)
- 令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます(厚生労働省)(2026年7月21日参照)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)(2026年7月21日参照)
- 労働条件相談ほっとライン(厚生労働省)(2026年7月21日参照)
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