朝、更衣室のロッカーの前で足が止まる。今日も先輩に呼び止められるかもしれない、今日も何かをやらかすかもしれない。そう思った瞬間、「もう辞めたい」という言葉が頭をよぎる——。看護師1年目のいま、そんな気持ちを抱えていませんか。
1年目の「辞めたい」は、扱いがとても難しい気持ちです。まだ何もわかっていない段階だからこそ「もう少し続ければ変わるのでは」とも思えるし、同時に、心と体が本当に限界に近づいていることもあるからです。この二つは、外から見ると似ていますが、必要な対応がまったく違います。
この記事では、「続けるべき」とも「辞めるべき」とも言いません。代わりに、判断するための順番と材料をお渡しします。つらさの中身を分解し、最優先で立ち止まるべきサインを確認し、辞める前に知っておきたい働く人としての基本、1年で辞めた場合のキャリアまでを順に整理します。
はじめに|この記事が扱うこと、扱わないこと
先に線を引かせてください。当サイトはキャリアと働き方を扱うメディアであり、医療の専門メディアではありません。
この記事で医療の手順を解決しようとしないでください。看護技術、アセスメントの考え方、インシデント時の臨床上の対応といった医療の実務は一切扱いません。それらは院内の教育担当者・上司・先輩、あるいは看護の専門的な情報源に必ず当たってください。
心身の不調に関する判断も、この記事ではできません。眠れない、涙が出る、体に症状が出ているといった状態については、医療機関や相談窓口の判断が、この記事の内容よりも常に優先されます。
この記事が扱うのは、「辞める/続ける」の意思決定と、働く人としての基本的な知識だけです。
「1年目で辞めたい」と感じているのは、あなた一人ではない
1年目でつらいとき、いちばん苦しいのは「同期はやれているのに自分だけができない」という感覚かもしれません。その感覚を少し相対化しておきましょう。
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年3月31日発表)によると、2024年度の新卒採用者の離職率は8.4%でした(ここでの「看護職員」は保健師・助産師・看護師・准看護師を指します)(正規雇用看護職員全体は11.0%、既卒採用者は16.1%)。調査は全国の病院8,022施設を対象に2025年10月1日〜11月17日に実施され、有効回収数は3,502施設です(うち離職率の算定対象は3,440施設)(出典:日本看護協会 News Release/2026-07-21参照)。なおこの数値は「病院」に採用された新卒者が対象で、クリニックや訪問看護などは含まれていません。
この数字をどう受け取るか
この8.4%は、「だから辞めていい」とも「だから辞めるのはおかしい」とも読めます。受け取ってほしいのは、あなたの状況を判定する基準ではなく、「1年目で職場を離れる人は確かに存在している」という事実だけです。
数字は、あなたが辞めるべきかを教えてくれません。それを決めるのはつらさの中身です。次章から分解していきます。


1年目の「辞めたい」を5つに分解する
「辞めたい」は、いくつもの負荷が重なって生まれた結果です。まとめて「つらい」と扱う限り、打つ手が見えません。1年目に多い背景を5つに分け、それぞれ「辞める以外にまず向かう先」も添えます。自分に近いものを探しながら読んでみてください。複数が重なっているのが普通です。
①できない自分がつらい(技術・知識の未熟さ)
手技に時間がかかる、指示の意味がすぐに理解できない、優先順位のつけ方がわからない。「自分だけができていない」という感覚が積み重なり、職場にいること自体が苦しくなるタイプです。
この場合、つらさの原因は「あなたの適性」ではなく「経験量」にある可能性があります。ただし時間で解決するかどうかは、教育体制が機能しているかに左右されます。指導がそもそも受けられない、質問できる相手がいないという状態なら、それは個人の努力ではなく職場環境の問題です。「何がわからないか」を具体的に伝えられる場があるかを確認してみてください。
②夜勤と交代制が体に来ている
夜勤に入り始めてから、休みの日も回復しない。生活のリズムが戻らない。仕事の内容は嫌ではないのに、勤務のサイクルだけが耐えられない——という状態です。1年目は夜勤の開始時期と重なるため、ここでつまずく人は少なくありません。
身体的な負荷は、気合いで埋められるものではありません。「看護師を辞める」より先に、夜勤の回数や勤務形態を相談できないかを考える段階です。体調に影響が出ているなら、後述する医療機関への相談を優先してください。
③プリセプター・先輩との関係
指導してくれる相手と相性が合わない、質問すると不機嫌になる、人前で強く叱責される。教育を受ける立場と人間関係の悩みが重なり、1年目には逃げ場が少なく感じられるタイプです。
ここで大切なのは、「指導」と「ハラスメント」は別物だという線引きです。人格を否定する言動、他の職員の前で繰り返し辱める行為、業務上明らかに不要な負荷を課すといったものは、指導の範囲を超えている可能性があります。相手を変えられなくても、異動や配置の相談という手段は残っています。
④インシデントへの恐怖
ヒヤリとした出来事のあと、その場面が頭から離れない。次の勤務が怖い。自分のせいで誰かに取り返しのつかないことが起きるのではないかという不安が、勤務外でも消えない——というタイプです。
繰り返しますが、この記事で医療安全の手順を解決することはできません。再発防止の具体策は必ず院内の体制の中で扱ってください。ここでお伝えできるのは、その恐怖を一人で抱えないでほしいということだけです。不安で眠れない、勤務前に体調を崩すところまで来ているなら、それは次章の領域です。
⑤理想と現実のギャップ
患者さん一人ひとりに丁寧に向き合いたくて選んだ仕事なのに、実際は時間に追われて業務をこなすだけになっている。思い描いていた看護と、目の前の毎日が違いすぎる——という落差です。
この場合、辞めたいのは「看護」ではなく「いまの現場の忙しさ」かもしれません。同じ資格でも、患者さんとの関わり方の密度は職場によって変わります。「看護そのものが嫌なのか、いまの環境が嫌なのか」が、この後の判断の軸になります。
| 背景 | つらさの中心 | 辞める以外にまず向かう先 |
|---|---|---|
| ①技術・知識の未熟さ | できない自分への否定感 | 教育体制が機能しているかを確認する |
| ②夜勤・交代制 | 身体的な負荷と生活リズム | 勤務形態の相談/体調は医療機関へ |
| ③先輩との関係 | 指導と人間関係の重なり | 指導とハラスメントを線引きし、院内窓口・異動を検討 |
| ④インシデントへの恐怖 | 勤務外まで続く不安 | 院内で共有する/不眠等があれば次章へ |
| ⑤理想とのギャップ | 働き方への納得感 | 「看護が嫌か、環境が嫌か」を切り分ける |
看護師という職業に共通する事情(夜勤・命を預かる重圧・人手不足による引き止めなど)を、1年目に限らずより広く整理した記事もあります。あわせて読むと、自分の状況が全体のどこに位置するのかが見えやすくなります。

最優先で立ち止まる線引き|心と体のサイン
ここが、この記事でもっとも重要な章です。前章までの整理は、心と体に余力が残っている場合の話でした。次のような状態が出ているときは、キャリアの検討よりも先に、休養と専門家への相談を優先してください。以下は病気かどうかを判定するためのものではなく、専門家に相談する目安として挙げるものです。当てはまる数が少なくても、つらさが続いているなら相談していい状態です。
- 気分の落ち込みが、2週間以上ほぼ毎日続いている
- 眠れない、または寝ても疲れが取れない日が続いている
- 出勤前になると吐き気・動悸・頭痛・腹痛などの体の不調が出る
- 職場のことを考えると涙が出る、涙が止まらない
- 食欲が落ちた、または食べすぎてしまう状態が続いている
- これまで楽しめていたことが、楽しめなくなった
これらが出ているとき、必要なのは「もう少し頑張るか、辞めるか」の判断ではなく、まず状態を専門家に診てもらうことです。1年目は「慣れていないだけ」と自分で説明をつけやすく、その説明が不調の発見を遅らせることがあります。看護職は自分の不調も自分で判断しがちですが、判断する側とされる側を一人で兼ねるのは無理があります。
上のようなサインが続くときは、心療内科や精神科などの医療機関に相談することを考えてください。勤務先に産業医がいる場合や、院内に職員向けの健康相談窓口がある場合は、そちらも利用できます。「受診するほどではないかも」とためらうときは、厚生労働省の相談窓口「こころの耳」の電話相談(0120-565-455/フリーダイヤル・無料)という選択肢もあります。受付は平日17:00〜22:00(受付は21:50まで)、土日10:00〜16:00(受付は15:50まで)で、祝日・振替休日・年末年始(12月29日〜1月3日)を除きます。プライバシーは厳守される旨が案内されていますが、発信者番号を非通知にした電話は受け付けられないとされています(厚生労働省「こころの耳」電話相談/2026-07-21参照)。なおこの窓口では病名の診断や治療方針の判断は行っていません。話を聴いて状況を整理し、必要に応じて適切な相談先を案内してくれる窓口です。受付時間外(深夜や祝日など)につらさが強いときは、24時間つながる窓口もあります。#いのちSOS(0120-061-338/フリーダイヤル・無料)は毎日24時間、専門の相談員が話を受け止めています(出典:厚生労働省「まもろうよこころ」/2026-07-21参照)。この記事の内容よりも、専門家の判断が優先です。
進路をどうするかは、心と体が少し落ち着いてからでも遅くありません。むしろ、消耗しきった状態で下した決断は、あとから見直したくなることがあります。順番として、健康の確認が先、キャリアの判断が後です。働くこととメンタルヘルスの関係については、次の記事でも整理しています。

辞める前に確認しておきたい、働く人としての基本
心身の状態を確認したうえで、なお辞めることを検討するなら、その前に押さえたいことがあります。1年目は、自分にどんな条件が約束されていたのかを知らないまま働いていることが少なくありません。
労働条件通知書を読み返す
入職時に受け取った労働条件通知書(または雇用契約書)には、勤務時間、休日、業務内容、退職に関する事項などが書かれています。「聞いていた話と違う」と感じるなら、まずこの書面と実態を照らし合わせてください。食い違いの有無で、取れる手段が変わってきます。

時間外労働と有給休暇
始業前の情報収集、勤務時間後の記録や勉強会。1年目は「これは仕事なのか、自分の勉強なのか」の区別がつきにくく、時間外の扱いが曖昧なまま過ぎがちです。実態を一度確認しておくことには意味があります。
年次有給休暇についても、基本を知っておいてください。厚生労働省の解説によれば、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10労働日の年次有給休暇が与えられるとされています(出典:厚生労働省「確かめよう労働条件」年次有給休暇/2026-07-21参照)。つまり、入職して半年を過ぎていれば、要件を満たす限り有給休暇は取得できる立場にあります。
労働条件やハラスメントについて、職場の中では相談しづらいという場合、各都道府県の労働局や労働基準監督署などに設置されている総合労働相談コーナーを利用する方法もあります。予約不要・無料で、労働条件やハラスメントに関する相談を受け付けており、プライバシーの保護に配慮した対応が行われます(土日祝・年末年始は閉庁)。心身の不調そのものについては、前章のとおり医療機関や「こころの耳」を頼ってください。窓口の役割が異なります。
1年で辞めた場合、キャリアは実際どうなるのか
1年目で辞めるのをためらう最大の理由は、「経歴に傷がつくのではないか」という不安かもしれません。ここでは期待も不安も煽らず、事実として言えることだけを整理します。
第二新卒という枠がある
学校を卒業して数年以内の求職者を「第二新卒」として受け入れる採用の枠は、実際に存在します。ただし、それが「1年で辞めても有利」を意味するわけではありませんし、逆に「必ず不利」と決まっているわけでもありません。評価は、応募先や職種、そしてあなたが辞めた理由をどう説明できるかによって変わります。
言えるのは、「1年で辞めた人には道がない」という前提は事実ではないということです。第二新卒という枠組みは次の記事にまとめています。

「病院を辞める」と「看護師を辞める」は別
もう一つ、1年目には視野に入りにくいことがあります。看護師資格が活きる場は、いまの病棟だけではありません。クリニックや診療所、訪問看護、介護施設、健診センター、企業内の看護職など、働き方や負荷の質が異なる場が存在します。
どの職場にも大変さがあり、「移れば楽になる」とは言えません。ただ、選択肢が「いまの病棟を続けるか、看護師を辞めるか」の二択ではないことは知っておいて損はありません。ここでも効いてくるのが「看護が嫌なのか、環境が嫌なのか」という軸です。

辞めると決めたときの進め方
整理を重ねて「やはり辞める」と決めたなら、その判断は尊重されるべきものです。進め方を順番だけ押さえておきましょう。
- 就業規則で退職の申し出時期を確認する:いつまでに誰へ伝えるかが書かれています。ただし就業規則の定めが常に優先されるとは限らず、契約の形態によって扱いが変わります。極端に長い予告期間を求められて困ったときは、後述の総合労働相談コーナーなどに相談できます。
- 直属の上司に口頭で意思を伝える:まず師長など直属の上司に伝えるのが基本です。
- 引き止めを想定しておく:人手が足りない職場では強く慰留されることがあります。理由を論破する必要はなく、意思を落ち着いて繰り返すのが基本です。
- 退職日と引き継ぎを決める:残った有給休暇の扱いもこの段階で確認します。
- 公立病院などは手続きが異なることがある:勤務先の区分によって流れが変わります。
なお、退職を切り出す進め方は、看護師に限らず社会人1年目に共通する部分が多くあります。次の記事も参考にしてください。

よくある質問(FAQ)
- Q看護師1年目で辞めたいと思うのは甘えでしょうか?
- A
「甘えかどうか」を判定しても、次に何をすればよいかは決まりません。判断材料にならない問いなので、いったん脇に置くことをおすすめします。有効なのは、つらさの中身を分けることです。技術の未熟さ、夜勤の負荷、先輩との関係、インシデントへの恐怖、理想とのギャップ——どれが中心かで必要な対応が変わります。ただし、眠れない・出勤前に体調を崩す・落ち込みが2週間以上続くといった状態があるなら、この切り分けより先に医療機関や相談窓口を頼ってください。
- Q1年目で辞めたら、次の就職に影響しますか?
- A
「必ず不利になる」とも「まったく影響しない」とも言えません。評価は応募先や職種、辞めた理由をどう説明できるかによって変わります。確かなのは、学校卒業から数年以内の求職者を受け入れる「第二新卒」の採用枠が実在し、1年で辞めた人に道がないわけではないということです。また、いまの病棟を離れることと看護師資格を手放すことは別で、クリニック・訪問看護・健診センター・企業内の看護職など、資格を活かせる場はほかにもあります。
- Q1年目でも有給休暇は取れますか?
- A
厚生労働省の解説によれば、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10労働日の年次有給休暇が与えられるとされています(出典:厚生労働省「確かめよう労働条件」年次有給休暇/2026-07-21参照)。入職から半年を過ぎていれば、要件を満たす限り取得できる立場にあります。実際の付与日数や手続きは勤務先の就業規則にも書かれています。
- Q辞めたいけれど、人手不足で言い出せません。
- A
まず就業規則で、退職の申し出をいつまでに誰へ伝えるべきかを確認してください。そのうえで直属の上司に口頭で意思を伝えるのが基本の流れです。強く慰留されることもありますが、理由を説明して相手を納得させる必要はなく、意思を落ち着いて繰り返すのが基本です。なお公立病院など勤務先の区分によって手続きが異なる場合があるため、早めの確認をおすすめします。
まとめ|順番を守れば、判断はできる
- 「甘えかどうか」は判断材料にならない。つらさの中身を分けるほうが役に立つ
- 1年目の「辞めたい」を①技術の未熟さ/②夜勤・交代制/③先輩との関係/④インシデントへの恐怖/⑤理想とのギャップに分解する
- 眠れない・出勤前の体調不良・2週間以上の落ち込みがあるなら、キャリアの判断より先に医療機関・産業医・こころの耳(0120-565-455)へ
- 辞める前に労働条件通知書と実態を照合し、有給休暇など働く人としての基本を確認する
- 1年で辞めた場合、有利とも不利とも決まっていない。第二新卒の枠は実在し、資格が活きる場も病棟だけではない
- 順番は「健康の確認 → つらさの切り分け → 進路の判断」。消耗しきった状態で決めない
1年目は、判断に使える材料がまだ少ない時期です。だからこそ勢いで決めることも限界まで我慢することも避けたいところです。この記事が示したのは結論ではなく順番でした。まず心と体の状態を確認し、次につらさの中身を分け、最後に進路を決める。その順番さえ守れば、いまのあなたにも判断はできます。心や体にサインが出ているときは、迷わず専門家を頼ってください。あなたの健康を守ることが何よりも先です。