利用者さんの前では笑顔でいられる。それなのに、出勤前の駐車場で車から降りられない日がある。夜勤明けの帰り道に、ふと「もう辞めたいな」と浮かぶ。そんな時間を、一人で過ごしていませんか。
先にお伝えしたいことがあります。介護職が「辞めたい」と感じるのは、思いやりが足りないからでも、この仕事に向いていないからでもありません。かといって、それが「今すぐ辞めるべき合図」だと決まってもいません。大切なのは、その「辞めたい」を生んでいる負担がどこにあるのかを分けて見ることです。
この記事では、勢いで結論を出す前の話をします。介護の現場ならではの負担を切り分け、体と心に出るサインの見極め方、そして「介護を辞める」の前に知っておきたい働く場の幅までをお伝えします。
なお、医療の現場で同じ気持ちを抱えている方は、次の記事もあわせてどうぞ。

また、「そもそも朝、職場に足が向かない」という段階の方は、こちらも参考にしてください。

介護の仕事で「辞めたい」と感じる夜に
「辞めたい」という言葉が浮かんだとき、自分を責めてしまう人がいます。「人の生活を支える仕事なのに」「同じ職場の人は続けているのに」と。ですが、その責め方は向き合うためのエネルギーを削るだけです。
介護の仕事には、体に負荷のかかる動き、夜勤を含む勤務のリズム、人の暮らしと最期に近い距離で関わる緊張など、いくつもの負担が同時にかかります。そのなかで「辞めたい」と浮かぶのは、体や心が何かを知らせてくれている合図です。向き合う相手は自分ではなく、そう思わせている事情のほうです。
「気持ちの問題」で片づけないために
ここで、両極端の受け止め方をどちらも横に置きましょう。「その程度で辞めたいなんて甘えだ」という叱り方と、「つらいなら今日にでも辞めてしまえ」という勢い任せの結論です。どちらも、いまのあなたに必要な判断材料をくれません。
「辞めたい」という気持ちは、その日の疲れやひとつの出来事で大きく揺れます。夜勤明けに結論を急ぎ、あとから「ただ消耗しきっていただけだった」と気づくこともあります。逆に、体や心が悲鳴を上げているのに押し込め続ければ、戻るまでに時間がかかります。だからこそ、まず切り分けなのです。


介護職の「辞めたい」を6つの負担に分けて見る
「辞めたい」とひとことで言っても、中身はさまざまです。どこに負担がかかっているかで、必要な対処は変わります。ここでは介護の現場で語られる負担を6つに分け、「辞める以外の道」も挙げます。自分の「辞めたい」がどれに近いか、当てはめながら読んでください。
①体への負荷(腰や膝の痛み)
移乗や入浴の介助、中腰の姿勢が続く場面など、体に負荷のかかる動きが積み重なります。腰や肩、膝に痛みが出てきた。朝、起き上がるのがつらい——負担の中心が体にあるタイプです。
このタイプで何より大切なのは、我慢して働き続けないことです。腰や膝の痛み、しびれといった不調が続くなら、まず整形外科などの医療機関で診てもらってください。そのうえで、福祉用具の活用や介助の分担を職場に相談する、身体的な負担の質が違う職場を検討する、という道があります。
②夜勤と不規則な勤務のリズム
夜勤明けの体がなかなか戻らない、休みの日も疲れが抜けない、家族や友人と時間が合わない——勤務のリズムそのものが体と生活に合わなくなっているタイプです。ケアの仕事は続けたいのに、夜勤のサイクルだけがつらい、という人もいます。
「介護を辞める」の前に、夜勤のない勤務形態や日勤中心の職場に移る道があります。資格と経験はそのままに、働き方だけを変えられる可能性は残されています。
③利用者さんやご家族との関わりで生じる気疲れ
介護は、相手の生活と気持ちに深く関わる仕事です。思いがうまく伝わらない、期待に応えきれない、感情を強く使う場面が続く——人と関わることそのものにエネルギーを使い果たしているタイプです。
相手を悪者にして整理しないことも大切です。利用者さんもご家族も、それぞれに不安や事情を抱えています。それでも受け止める側の負担が一人に偏れば消耗します。チームで共有し、難しい場面を上司やリーダーと分け合うことが、まず取れる手立てです。
④看取りに向き合う心の重さ
関わってきた方を見送る経験は、介護の大切な一面であると同時に、心に重さを残します。気持ちの整理がつかないまま次の勤務が始まる、ふとした瞬間に思い出して涙が出る——別れを重ねる負担が積もっているタイプです。
この重さは、慣れれば消えるものとして扱わないでください。職場に振り返りの場があるなら参加する、信頼できる同僚や上司に話すといった形で、言葉にすることが助けになります。眠れない、落ち込みが続くといった状態が出ているなら、次の章の相談先を頼ってください。
⑤職場の人間関係と連携のむずかしさ
限られたメンバーで交代しながら回す職場では、人との距離が近くなります。申し送りが伝わらない、ケアの方針で意見が食い違う、相談できる相手がいない——辞めたい気持ちの中心に「人」がいるタイプです。ケアは嫌いではないのに、関係だけで足が向かなくなることも起こります。
「介護に向いていない」と自分を責める必要はありません。問題はケアそのものではなく、いまいる場の関係にあるからです。別の事業所へ移る、職場を変えるといった「場を移す」対処が向いています。
⑥処遇や評価への納得感
頑張りを見てもらえている実感がない、シフトや配置に納得がいかない、この先のキャリアが描けない——働く条件や評価への納得感が薄れているタイプです。日々のケアに不満はなくても、この先ずっとここで、と考えると気持ちが沈みます。
いまの職場で改善の余地があるのか、それとも場を変えないと解決しないのか。その見極めが入り口になります。
6つの負担と、向かう方向を表にまとめます。
| 負担 | 「辞めたい」の中心 | 辞める以外にまず向かう方向 |
|---|---|---|
| ①体への負荷 | 腰・膝・肩の痛みや疲れ | 医療機関で診てもらう/福祉用具・介助の分担を相談 |
| ②夜勤・勤務リズム | 交代制が体と生活に合わない | 夜勤のない形態・日勤中心の職場を検討する |
| ③人との関わり | 感情を強く使う場面での消耗 | 抱え込まずチームで共有し、対応を分け合う |
| ④看取り | 別れを重ねる心の重さ | 言葉にする場を持つ/不調が続くなら相談先へ |
| ⑤職場の人間関係 | 特定の相手・連携のむずかしさ | 事業所異動など「場を移す」対処を考える |
| ⑥処遇・評価 | 納得感・将来像が描けない | 職場での改善余地を確認し、難しければ場を変える |
体と心の不調が出てきたら|医療機関と相談窓口の頼り方
ここが、この記事でいちばん大切な章です。「辞めたい」という気持ちは、休みを取るうちに落ち着いていくことがあります。ですが、そうならず、体や心に不調が出ているときもあります。そのときは、休養と相談を最優先すべき合図として受け止めてください。
目安として、次のような状態が見られるときは、一人で抱え込まないでください。
- 気分の落ち込みが、2週間以上ほぼ毎日続いている
- 夜、眠れない。または寝ても疲れが取れない日が続く
- 出勤前になると吐き気や動悸、頭痛など体の不調が出る
- 職場のことを考えると涙が出る、涙が止まらない
- 食欲が落ちた、または食べすぎてしまう状態が続く
- これまで楽しめていたことが、楽しめなくなった
これらは、気持ちが弱いから起きているのではありません。体と心が「もう限界に近い」と知らせている合図です。大切なのは、「もう少し我慢すれば慣れる」と無理を重ねないこと。意味を自分で決めつけず、専門家に見てもらうことです。人のケアをする仕事では、自分のことが後回しになりやすいので気をつけてください。
上に挙げたような状態が続くときは、心療内科や精神科などの医療機関に相談することを考えてください。勤務先に産業医がいる場合や、職場に健康相談の窓口がある場合は、そちらに相談することもできます。「まだ受診するほどでは」とためらうときは、厚生労働省の相談窓口「こころの耳」の電話相談(0120-565-455)を頼る方法もあります。名前を名乗らずに、無料で働く人の心の悩みを相談できます(2026年1月から、発信者番号を非通知にした電話は受け付けられません。非通知設定の場合は番号の前に「186」を付けてかけてください)。受付は平日17時〜22時、土日10時〜16時です(祝日・年末年始を除く)。この記事の内容よりも、専門家の判断が優先です。一人で抱え込まず、まずは頼ってみてください。
腰や膝の痛み、しびれといった体の症状も同じです。「この仕事をしていれば仕方ない」と流さず、整形外科などの医療機関で診てもらってください。辞めるかどうかを考えるのは、体と心が少し落ち着いてからでも遅くありません。

施設の形態が変われば、負担の質も変わる
体と心が少し落ち着いたら、次は「働く場の幅」です。「辞めたい」と感じると、頭の中が「いまの職場を続けるか、介護を辞めるか」の二択になりがちです。その間には資格と経験を持ったまま働く場を変えるという道があります。
主な形態と、勤務や関わり方の違い
介護の仕事は、施設やサービスの形態によって勤務の組み方も関わり方も違います。職場ごとの体制には差がありますが、形態の違いを知っておくと探し方が変わります。
- 特別養護老人ホーム:常時の介護を必要とする方が生活する入所施設で、夜勤を含む交代制の勤務です。
- 介護老人保健施設:在宅復帰を目標とする施設で、リハビリ職や看護職との連携があります。
- 有料老人ホーム:運営する事業者によって方針や体制に幅があります。
- グループホーム:少人数のユニットで生活を共にし、一人ひとりと長く関わります。
- 訪問介護:利用者さんのご自宅を訪ね、一対一で支援します。
- 通所介護(デイサービス):日中の通いのサービスで、夜勤のない勤務形態があります。
- 小規模多機能型居宅介護:通い・泊まり・訪問を組み合わせ、同じ方と継続して関わります。
どの形態にも、それぞれの大変さがあります。お伝えしたいのは「いまの職場のつらさ=介護という仕事のつらさ」とは限らない、ということです。切り分けた負担と照らして探すのが近道です。
資格と経験を、直接介護以外にも広げる
もうひとつの方向が、資格と経験の活かし方を広げることです。直接介護から少し離れた役割や、介護に隣接する分野にも、経験が生きる場があります。
資格を足がかりにする
介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)といった資格は、任される役割の幅を広げます。ただし取得や受験の要件はルートによって異なり(実務経験を積む道のほか、養成施設を経る道もあります)、制度の見直しで変わることもあります。最新の要件は、お住まいの都道府県の案内で確認してください。
ただし、資格を取れば負担がなくなるという単純な話ではありません。「いまのつらさから逃れるため」だけを理由にすると、思っていた姿とずれることがあります。
直接介護以外の職種、隣接する分野
- 生活相談員:入所や利用の相談、ご家族や関係機関との調整を担います。
- サービス提供責任者:訪問介護で、計画の作成やヘルパーの調整を担います。
- 介護支援専門員(ケアマネジャー):ケアプランの作成を通じて生活を支えます。
- リーダー・管理的な役割:チームの運営や後輩の育成に関わります。
- 福祉用具や住宅改修に関わる仕事:現場で培った視点が提案に生きます。
- 医療事務など、医療・福祉に隣接する事務職:現場経験が生きます。
どの道にも向き不向きがあり、体への負荷が減っても、調整や書類の仕事が増えることもあります。美化せず、実際の仕事の中身を確かめてから選んでください。
「どんな道があるのか、まず知ってみたい」という段階なら、いますぐ辞める必要はありません。転職エージェントは、在職中でも無料で相談でき、介護の資格や経験がどんな場で活かせるのかを一緒に整理する相手になってくれます。
介護を続けたいのか、離れたいのか|自分に向ける3つの問い
選択肢の幅が見えてきたら、次は自分がどちらへ進みたいのかを整理する番です。ここで役に立つのが、前半で切り分けた負担です。次の3つを自分へ向けてみてください。
- ケアそのものに手ごたえを感じた瞬間を、思い出せるか
- つらさの中心にあるのは「いまの場」か、それとも「仕事の中身」か
- 体の不調が中心なら、医療機関の受診と働き方の調整を先に試したか
手ごたえの記憶があり、つらさの中心が「場」にあるなら、働く場を変えることで気持ちが変わる可能性があります。一方、ケアの中身そのものがどうしても合わないと感じるなら、介護を離れる方向も含めて考えることになります。まず問い直したいのは、「介護が嫌なのか、いまの場が嫌なのか」です。
見落としやすいのが、「いまの法人に在籍したまま、事業所や役割を変える」という道です。退職せずに動くことで解決することもあります。希望の伝え方は、次の記事にまとめています。


退職を決めたあとに|人手が足りない職場で意思を伝える
切り分けと整理を重ねて「やはり辞めよう」と決めたなら、その決断は尊重されるべきものです。ただ、人手が足りない職場では、退職を切り出したときに強い引き止めにあうことがあります。切り出せないまま時間が過ぎる、という人もいます。
持っておきたいのは、退職の意思を伝えること自体は、働く人に認められているという点です。引き止めにあっても、あなたが辞めると決めた理由が消えるわけではありません。感情的にぶつかる必要はなく、落ち着いて意思を伝え、就業規則に沿って手順を踏むのが基本です。
交代制のシフトを組む職場では、早めに伝えるほど職場側が調整の時間を取りやすくなります。義務ではありませんが、話を進めやすくなる考え方です。具体的な流れは、退職の全体像をまとめた次の記事を参考にしてください。

よくある質問(FAQ)
- Q介護職を辞めたいと思うのは、思いやりが足りないからでしょうか?
- A
そうではありません。介護の仕事には、体に負荷のかかる動き、夜勤を含む勤務のリズム、人の暮らしと最期に近い距離で関わる緊張など、いくつもの負担が同時にかかります。「辞めたい」と感じるのは、体や心が知らせてくれている合図です。自分を責める前に、その気持ちがどの負担から来ているのかを分けてみてください。
- Q腰の痛みがつらくて続けられそうにありません。どうすればいいですか?
- A
まず、整形外科などの医療機関で診てもらってください。「この仕事をしていれば仕方ない」と我慢を重ねると、回復に時間がかかることがあります。そのうえで、福祉用具の活用や介助の分担を職場に相談する、身体的な負担の質が違う職場や役割を検討する、という道があります。
- Q夜勤がどうしてもつらいのですが、介護の仕事は辞めるしかないですか?
- A
「辞めるしかない」とは限りません。介護の仕事は、施設やサービスの形態によって勤務の組み方が違います。たとえば通所介護(デイサービス)は日中の通いのサービスで、夜勤のない勤務形態があります。負担の中心が夜勤にあるなら、働く場を変える道を先に検討してみてください。ただし職場ごとの体制には差があるため、実際の勤務の組み方を確認してから決めてください。
- Q人手が足りない職場で、辞めると言い出せません。
- A
退職の意思を伝えること自体は、働く人に認められていることです。引き止めにあっても、あなたが辞めると決めた理由が消えるわけではありません。感情的にぶつかる必要はなく、落ち着いて意思を伝え、就業規則に沿って手順を踏んでいくのが基本です。交代制の職場では、早めに伝えるほど調整の時間を取りやすくなります。
まとめ|負担を分けて見れば、次の一歩が見えてくる
- 介護職の「辞めたい」は思いやり不足ではなく、体と心が出す合図。まず自分を責めるのをやめる
- 負担を①体への負荷/②夜勤・勤務リズム/③人との関わり/④看取り/⑤職場の人間関係/⑥処遇・評価に分けて見る
- 眠れない・出勤前の吐き気・涙・2週間以上の落ち込みが出たら、我慢せず心療内科/精神科・産業医や職場の健康相談・こころの耳(0120-565-455)へ
- 腰や膝の痛み、しびれなど体の症状は、我慢せず整形外科などの医療機関で診てもらう
- 「続ける/辞める」の二択の間に、施設の形態を変える・直接介護以外の役割へ広げるという道がある
- 辞めると決めたら落ち着いて意思を伝える。交代制の職場では早めに伝えるほど調整の時間を取りやすい
「介護職を辞めたい」と感じるのは、あなたの気持ちが足りないからでも、この仕事に向いていないからでもありません。その気持ちを責めるのではなく、どの負担から来ているのかを分けて見て、それに合った整理をしていく。体や心に不調が出ているときは、決して無理をせず、専門家や相談窓口を頼ってください。あなたの体と心を守ることが、何よりも先です。
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