「公務員から転職して後悔した」という声を目にすると、動きかけていた気持ちが止まってしまう方は少なくありません。一方で、転職して納得している人がいるのも事実です。同じ「公務員から民間へ」という選択なのに、なぜ結果が分かれるのでしょうか。
この記事では体験談を並べるのではなく、後悔がどう生まれるのかを分解し、決める前に自分で検証できる形に落とし込みます。給与についても、公的統計を出典と年次つきで示します。
本記事は個人の体験談ではなく、公表されている制度・統計をもとに編集部が整理したものです。給与や制度は改正・改定があるため、判断にあたっては最新の一次情報と所属先の規程をご確認ください。
「公務員から転職して後悔」で検索する人が、本当に知りたいこと
このキーワードで検索する方の多くは、「後悔した人がいるか」を知りたいわけではありません。後悔談があることは知っていて、そのうえで「自分はその後悔する側に入るのか」を判断したい段階にいます。
ところが体験談は、書いた人の年齢・職種・家族構成・転職先の業界がすべて違います。読むほど「人による」という結論に近づき、判断材料としては使いにくいのが実情です。必要なのは他人の結末ではなく、後悔が発生する条件を自分の状況に当てはめて確かめる道具です。そこでまず、後悔の中身を5つの要素に分解します。
後悔が生まれる5つの構造|変わるのは給料だけではない
公務員から民間へ移るとき、変化するのは収入だけではありません。次の5つが同時に切り替わることが、後悔の起きやすさにつながります。ひとつずつなら対処できても、同時に変わると「何が原因でつらいのか」を自分で特定できなくなるためです。
① 収入構造|変わるのは「額」より「上がり方と下がり方」
公務員の給与は俸給表と経験年数を基礎に組み立てられており、上がり方の見通しが立てやすい仕組みです。民間では、業績や評価によって上がる幅も下がる幅も大きくなります。転職直後の年収が同じでも、10年後の振れ幅が読めなくなることそのものがストレスになる人がいます。
逆に、成果が処遇に反映されないことへの不満があった人には、この変化はメリットになります。同じ変化が人によって後悔にも満足にもなります。
② 身分保障|法律で守られていた枠組みの外に出る
国家公務員法第75条は「職員は、法律又は人事院規則で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない」と定めています。地方公務員についても、地方公務員法第27条第2項に同趣旨の規定があります。
民間企業に移ると、この枠組みは適用されません。民間でも労働契約法第16条などによる保護はありますが、制度の前提が変わることは事実です。この安心感をどれだけ重く見ているかは人により異なり、辞めてみるまで気づかないこともあります。
③ 仕事の裁量と評価軸|「正しさ」から「成果」へ
行政の仕事では、法令や前例に沿って正確に処理することが評価につながります。民間では正確さは前提とされ、売上や利益への貢献が評価軸に加わります。「丁寧にやったこと」が評価に直結しない場面が出てくるため、これまでの作法が通じないと感じることがあります。
④ 人間関係と異動|合わない相手と「離れられる/離れられない」の逆転
公務員は定期的な異動があるため、人間関係の問題が数年で自然に解消されることがあります。裏を返せば異動を待てば環境が変わるという選択肢が常にあるということです。
民間では部署異動の機会が公務員ほど定期的でない企業も多く、同じ上司・チームで長く働く可能性があります。「今の人間関係がつらい」を主な理由に転職すると、この点が想定と違って後悔につながることがあります。異動まで待てる状況かどうかは、決める前に確かめておきたい論点です。なお教育職の方は事情が一般行政職とは異なります。

⑤ 社会的信用|ライフイベントとの重なり方
住宅ローンなどの審査では、勤続年数や勤務先の属性が確認されます。転職直後は勤続年数がリセットされるため、審査と転職のタイミングが重なると想定どおりに進まないことがあります。基準は金融機関ごとに異なりますが、大きな契約を予定しているなら順序を検討する価値があります。
数字の話|公務員と民間の給与を単純比較してはいけない理由
「公務員のほうが高い」「民間のほうが稼げる」という話は、比較する数字の定義がそろっていないことが少なくありません。一次情報を定義とあわせて確認します。
公務員側の公表値は「月額」で示される
人事院「令和7年国家公務員給与等実態調査報告書」によると、令和7年4月1日現在の対象職員は249,149人、平均年齢41.8歳、平均給与月額(俸給及び諸手当の合計)は424,979円でした。
地方公務員は、総務省「令和6年地方公務員給与実態調査」で一般行政職の平均年齢42.1歳、平均給料月額317,951円、諸手当月額84,810円、平均給与月額402,761円(令和6年4月1日現在)と公表されています。国の行政職俸給表(一)適用職員の俸給月額を100とし、学歴や経験年数の差を補正したうえで給料水準を比較するラスパイレス指数は、全地方公共団体の加重平均で98.8(同日現在)でした。
民間側の公表値は「年額」で示される
国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者は5,137万人、その平均給与は478万円でした。雇用形態別では、正社員(正職員)が545万円、正社員以外が206万円と公表されています。
この2つを引き算してはいけない、2つの理由
つまり、よく見る「公務員○○万円 vs 民間○○万円」という比較は、多くの場合そのままでは成立しません。確かめるべきは全国平均ではなく、自分の現在の年収と、応募先が提示する額です。
人事院「令和7年国家公務員給与等実態調査報告書」/総務省「令和6年地方公務員給与実態調査結果等の概要」(令和6年12月26日公表)/国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」。各出典の所在は2026年7月21日に確認しました。なお地方公務員については令和7年調査(令和7年12月25日公表)も公表されています。給与制度は毎年改定されるため、判断にあたっては必ず最新版をご確認ください。
後悔した人としない人を分ける、「転職理由」の質
ここからが分岐点です。後悔の有無を左右するのは、転職先の業界でも年収でもなく、転職理由が「逃避」の形をしているか「獲得」の形をしているかだと考えられます。
逃避型|「〜から離れたい」で止まっている
「今の上司から離れたい」「この業務がつらい」——出発点としては自然な動機です。問題は、ここで止まったまま転職先を決めてしまうことです。離れることが目的だと、離れた瞬間に目的が達成され、次の職場を選ぶ基準が残らないのです。
結果として内定が出た順・条件が良さそうな順に選び、入社後に「思っていたのと違う」が起きやすくなります。
獲得型|「〜を得たい」まで言語化できている
一方「成果が処遇に反映される環境で働きたい」「この分野の専門性を身につけたい」のように得たいものが先にある場合は、転職先を選ぶ基準がそのまま手に入ります。基準があれば、条件が良く見える求人でも見送る判断ができます。
獲得型の理由は面接でもそのまま使えます。公務員からの転職では「なぜ安定を手放すのか」がほぼ必ず問われますが、得たいものが明確なら無理なく答えられます。
自分がどちらかを見分ける2つの質問
質問2が埋まらない場合は、転職活動そのものより先に、自分が何に向いているかを整理する工程が必要かもしれません。

辞める前に検証できるチェックリスト
後悔の多くは「調べれば分かったのに、調べないまま決めた」ことから生まれます。在職中に確認できることは想像以上に多く残っています。
特に3つ目は重要です。在職中に応募して反応を見ることは、辞めずにできる最も確実な情報収集です。噂や平均値ではなく、自分に対する実際の反応が分かります。

公務員経験は民間でどう見られるか|値段がつく経験・つきにくい経験
「公務員の経験は民間で通用しない」と言われることがありますが、正確には通用する部分と、そのままでは伝わらない部分があるという理解が実態に近いはずです。棚卸しの視点として整理します。
評価されやすいのは「再現性のある動き方」
利害の異なる関係者を調整して合意に持っていく力、根拠に基づいて正確な文書を作る力、法令や制度を読み解く力。これらは業界が変わっても持ち運べる能力として評価されやすく、規制と関わる業界や官公庁を顧客とする事業では直接的に活きます。
そのままでは伝わりにくいのは「組織固有の情報」
一方、庁内の決裁ルートや独自の様式といったその組織でしか通用しない知識は、そのまま書いても評価につながりにくい部分です。ここを職務経歴書の中心に据えると「何ができる人なのか」が伝わりません。
大切なのは、担当業務名を並べるのではなく「どんな課題に対して、何を工夫し、どうなったか」に置き換えることです。この翻訳ができているかどうかで、同じ経歴でも評価は変わります。

「戻れるのか」|経験者採用・任期付職員という制度は存在する
後悔が怖い理由のひとつに「辞めたら二度と戻れない」という感覚があります。制度として確認できる範囲で整理します。
国の「経験者採用試験」には年齢の上限要件がない
人事院は、民間企業等での職務経験がある人を対象とした「経験者採用試験(係長級(事務))」を実施しています。2026年度(令和8年度)試験の受験案内で公表されている受験資格には、年齢の上限は設けられていません(学歴に応じた経過年数などの要件はあります)。ただし受験資格は年度ごとに設定されるため、受験を検討する際は必ず最新の受験案内をご確認ください。
また「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」(平成12年法律第125号)に基づく任期付職員の制度もあります。地方自治体でも社会人経験者を対象とした採用が行われていますが、実施の有無・要件・年齢制限は自治体ごとに異なるため、志望先の募集要項をご確認ください。
ただし「戻れる前提」で辞めるのは勧められない
制度が存在することと、希望すれば戻れることは別です。これらの選考にも競争があり、採用予定数も年度によって変わります。「絶対に戻れない道ではない」という程度に受け止め、戻ることを前提に設計しないことが現実的です。
なお、年齢を理由に諦める必要があるかは、民間側の転職市場でも一律には言えません。

制度の違いで誤解しやすい2つのこと
民間企業向けの退職解説をそのまま読むと、公務員には当てはまらない情報を前提にしてしまうことがあります。特に間違えやすい2点を確認します。
① 退職は「申し出て2週間」ではなく、任命権者の承認による
民間企業の退職でよく引用される「申し入れから2週間で雇用が終了する」という民法627条の規定は、雇用契約を前提とした規定であり、任用という行政行為によって身分が生じる公務員にはそのまま適用されません。国家公務員の場合、人事院規則8-12(職員の任免)第51条が「任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする」と定めており、辞職は任命権者の承認を経る仕組みになっています。地方公務員についても、各自治体の条例・規則等に基づいて手続きが定められています。
職業選択の自由は憲法第22条第1項で保障されており、承認制は退職できないことを意味しません。条文自体が「特に支障のない限り、これを承認するものとする」としているとおり、通常は承認されるものとして運用されています。具体的な時期や書式は所属先の規程・人事担当にご確認ください。
② 常勤の公務員は雇用保険の被保険者ではない
雇用保険法第6条第6号は、国・都道府県・市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に他の法令等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が求職者給付等の内容を超えると認められる者であって厚生労働省令で定めるものを、同法の適用除外としています。この厚生労働省令(雇用保険法施行規則第4条)により、常時勤務に服することを要する国家公務員や、地方公共団体の長が申請して承認を受けた職員が適用除外となり、退職時には退職手当の制度が適用されます。一方で、非常勤職員や会計年度任用職員など、この適用除外に当たらない場合には雇用保険が適用されることがあります。自分がどちらに当たるかは、所属先の人事担当部署にご確認ください。
あわせて、国家公務員退職手当法第10条には「失業者の退職手当」という仕組みも設けられています。要件や取扱いは個別の事情により異なるため、具体的な内容は所属先の人事担当部署やハローワークにご確認ください。
よくある質問(FAQ)
- Q公務員から転職して後悔する人は多いのでしょうか?
- A
「公務員から転職した人のうち何割が後悔したか」を示す公的な統計は確認できていないため、多い・少ないを数字で断定することはできません。後悔を語る記事が検索結果に多く並ぶのは事実ですが、人は満足しているときより不満があるときのほうが発信しやすく、検索結果で見える割合と実際の割合は一致しない可能性があります。件数の印象より、5つの構造のうち自分にとって重いものを特定するほうが確実です。
- Q転職すると年収は下がりますか?
- A
上がる場合も下がる場合もあり、一律にはお答えできません。転職先の業界・職種・企業規模、現在の年収によって結果が変わるためです。よく見る「公務員の平均」と「民間の平均」の比較は、月額と年額、常勤職員と非正規を含む全体という具合に定義がそろっていない点にも注意が必要です。確実なのは、現在の年収(手当・賞与込み)を把握したうえで実際に応募して提示額を確認することです。
- Q在職中に転職活動をしても問題ありませんか?
- A
応募して選考を受けること自体は、職業選択の自由の範囲内の行為です。ただし公務員には守秘義務や信用失墜行為の禁止といった服務上の義務があり、勤務時間中の活動や職務上知り得た情報の取り扱いには注意が必要です。面接日程を勤務時間外や休暇に調整する、職場の情報を応募書類に書かないといった配慮のうえ進めてください。迷う場合は所属先の服務規程を確認するのが確実です。
- Q退職の意思は、どのくらい前に伝えればよいですか?
- A
公務員の場合、民間で言われる「2週間前」の考え方(民法627条)は適用されません。辞職は任命権者の承認を経る仕組みで、時期や手続き、書式は所属先の規程で定められています。年度単位で人員配置が組まれることが多いため、民間の一般的な感覚より早めに意思を伝え、引継ぎの時期を相談しておくと進めやすくなります。正確な取り扱いは所属先の人事担当部署にご確認ください。
- Q辞めたあとで、また公務員に戻ることはできますか?
- A
制度としては道が用意されています。国では、民間企業等での職務経験がある人を対象とした人事院の「経験者採用試験(係長級(事務))」があり、2026年度試験の受験資格に年齢の上限は設けられていません(要件は年度ごとに変わるため最新の受験案内をご確認ください)。任期付職員の制度もあります。地方自治体でも社会人経験者採用が行われていますが、実施の有無や要件は自治体ごとに異なります。ただしいずれも選考があるため、「戻れること」を前提に退職を決めるのは避けたほうがよいでしょう。
まとめ|後悔は「性格」ではなく「準備」で分かれる
後悔するかどうかは、根性や覚悟の問題ではありません。何が変わるのかを把握しないまま決めたか、把握したうえで決めたかという準備の差が大きいと考えられます。
- 後悔は「収入・身分保障・裁量と評価・人間関係と異動・社会的信用」の5つが同時に変わることで起きやすい。重い順に並べ替えると判断が具体的になる
- 公務員と民間の給与統計は、月額と年額、対象者の範囲が異なり、単純比較できない。見るべきは平均値ではなく自分の年収と実際の提示額
- 分岐点は転職理由の質。「〜から離れたい」で止まらず「〜を得たい」まで言語化できているかどうか
- 辞めずに検証できることは多い。特に在職中に応募して反応を見ることが、最も確実な情報収集になる
- 退職手続きと雇用保険は民間と制度が異なる。民間向けの解説をそのまま当てはめない
迷っている時間そのものは無駄ではありません。チェックリストを一つずつ埋めていけば、その時間は「決めるための材料集め」に変わります。焦る必要はありませんが、材料がそろわないまま迷い続けるのも一つの選択です。まずは辞めずにできることから手をつけてみてください。