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静かな退職とは|している本人が「続ける・変える・辞める」を決める判断軸

夕方のオフィスで鞄を持ち静かに帰る支度をする人物 キャリア
この記事は約13分で読めます。

決められた仕事はきちんとやる。でも、それ以上は求めない。残業も、手を挙げる仕事も、昇進も、いまは取りにいかない。そういう働き方をしている、あるいはしたいと考えている方に向けた記事です。

「静かな退職」と検索すると、上位に並ぶのは企業・人事向けの記事です。兆候・リスク・対策。あなたを「防ぐべき問題」として扱う視点です。この記事はその逆側に立ちます。勧めることも責めることもせず、この働き方が自分に効くのか、続けた場合に何を引き受けることになるのかを、公表されている調査データから整理します。

この記事の立場

推奨する記事でも批判する記事でもありません。選ぶかどうかを自分で決められる形に情報を整えるのが目的です。無断欠勤や業務の放棄など、労働契約上の義務に反する行為を勧めるものではありません。

静かな退職とは|調査で使われている定義と、本人の実感とのズレ

マイナビは調査リリースで、「静かな退職(Quiet Quitting)」を「やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすこと」と定義しています(「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」2026年4月13日発表)。

注目したいのは、この定義に「仕事をしない」「手を抜く」という要素が入っていない点です。決められた仕事はこなしている。求めていないのは、やりがいとキャリアアップです。

「サボり」と同じ扱いをされることへの違和感の正体

この言葉に抵抗を感じるとしたら、引っかかるのはこの点でしょう。「退職」が入っているせいで、きちんと働いているのに辞めかけている人・怠けている人に見られてしまう

労働契約は、決められた時間に決められた業務を提供する約束です。それを果たしたうえで、任意の残業や求められていない自己犠牲まで提供しないことは、契約違反にはあたりません。一方で指示された業務を放棄する・無断で欠勤する行為は契約上の義務に反します。なお、就業規則に定めがあり労使協定が結ばれている場合、正当な時間外労働の命令には従う必要があります。断れるのは任意の残業や任意参加の行事であり、命令として出された業務とは分けて考えてください。この線引きだけは最初に押さえてください。

契約の範囲内 / 範囲外の線引き
  • 範囲内:任された業務を期限どおり仕上げる/残業命令がない日は定時で帰る/任意参加の行事に出ない/手挙げ制の追加業務を取らない/昇進を希望しない
  • 範囲外:指示された業務をやらない/連絡なしで休む/必要な引き継ぎや報告をしない/同僚に実害が出る形で放置する

範囲外に踏み込めば、静かな退職ではなく評価や処分の対象になりうる行為です。守るべき線を守るからこそ成立します

この働き方をしている人は、どのくらいいるのか

同調査では、20〜59歳の正社員男女3,000名のうち46.7%が「静かな退職をしている」と回答し、前年より2.2pt増加しました。年代別では20代が50.5%で最も高く、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%と、全年代で4割を超えています。

マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」(2026年4月13日発表)。個人向け調査は2025年11月18日〜21日・インターネット調査・有効回答3,000件。 マイナビ 2026年調査リリース (2026年7月21日確認)

ただしこの数値は「自分だけではない」という安心材料にすぎません。割合の高さは、その働き方が自分に合うかどうかの答えにはなりません

なぜ静かな退職を選ぶのか|4つのタイプで自分の位置を確認する

同じ「静かな退職」でも、そこに至った経緯は違います。マイナビは前年の調査(2025年発表)で、きっかけを自由回答で集めてA〜Dの4タイプに分類しました。企業向け記事ではこれが「原因を特定して対策する道具」として使われますが、本人にはもっと直接的に使えます。どれに当てはまるかで打ち手が変わるからです。どれにも当てはまらない人もいるため、4つの合計は100%にはなりません。

静かな退職のきっかけ4タイプ(静かな退職をしている人に占める割合・2026年調査)
  • A 不一致タイプ(16.0%):仕事・環境の不適合による意欲低下。「今の職場にはやりがいがある仕事がない」(50代)
  • B 評価不満タイプ(17.0%):処遇・評価への不満。「自分で仕事を行い、面談時にアピールしても評価をされないから」(20代)
  • C 損得重視タイプ(18.8%):金銭的な損得やコスパから選択。「お金のために働いているのでそれに見合った仕事量はしている」(30代)
  • D 無関心タイプ(20.6%):もともとの価値観として変化・上昇を求めていない。「キャリアアップすることに興味がないから」(20代)

定義と自由回答例はマイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」(2025年4月22日発表 マイナビ 2025年調査リリース )、割合は同2026年調査。2026年7月21日確認。

C・Dは「選んだ」、A・Bは「そうなった」

4つは性質が二つに分かれます。C(損得重視)とD(無関心)は、自分の価値観から出発した選択です。仕事は生活の手段であって人生の主役ではない、という前提で設計された状態です。

一方、A(不一致)とB(評価不満)は、職場側の事情で「そうならざるを得なかった」状態です。頑張る理由を職場から返してもらえず、力の入れ方を下げています。

この違いは重要です。C・Dにとって静かな退職は「目的にかなった状態」ですが、A・Bにとっては「不満が解消されないまま止まっている状態」だからです。後者は不満を抱えたまま時間が過ぎます。

A・Bの背景には、会社側の仕組みが関わっていることがある

同じ2026年調査は、企業の中途採用担当者807名にも聞いています。異動・転勤・キャリアパスの選択について「会社の指示」が強い41.9%、「個人の希望」が強い12.4%。評価も、目標設定は「会社や上司の決定」が33.7%、評価基準や結果は「公表されない」27.6%が「オープンで説明がある」26.8%をやや上回りました。

つまり、やりがいの持てる仕事に就けないことや評価の根拠が見えないことは、必ずしも本人の姿勢の問題ではありません。「自分のやる気がないだけかもしれない」と感じている方は、A・BなのかC・Dなのかを切り分けてみてください。A・Bなら、問われているのは姿勢ではなく環境です。

静かな退職で、実際に何が得られているのか

企業向けの記事はここを扱いませんが、本人にはいちばん知りたい部分のはずです。

マイナビ2025年調査では、静かな退職をしている人のうち57.4%が「得られたものがある」と回答しています。内容は「休日や労働時間、自分の時間への満足感」が23.0%で最多、次いで「仕事量に対する給与額への満足感」が13.3%でした。

2026年調査では、静かな退職をしている人のうち「今後も続けたい(計)」が73.7%(前年70.4%)。内訳は「ずっと続けたい」28.8%、「できるだけ」23.9%、「どちらかといえば」21.1%。年代別では50代76.7%が最も高く、「続けたくない(計)」は20代29.4%が最高でした。

この数値の読み方

57.4%ということは、裏を返せば「得られたものがある」と答えなかった人が4割以上いるということでもあります。静かな退職をすれば自動的に時間や納得が手に入るわけではありません。その差を次に見ていきます。

時間と生活のバランスの設計については、こちらも参考にしてください。

静かな退職が「効く」ケースと「効かない」ケース

静かな退職は、職場に注いでいた力を引き上げ、その分を自分に戻す方法です。つまり、力を引き上げれば実際に負荷が減る環境でしか機能しません。

効くケース|業務範囲が線引きできる職場

次の条件がそろうほど機能しやすい
  • 担当業務の範囲が明確で、断っても他人の仕事が回らなくならない
  • 評価と処遇の連動が緩い(頑張っても給与が大きく変わらない仕組み)
  • 引き上げた時間の使い道が決まっている(育児・介護・治療・学習・副業など)
  • 今の収入で生活が成立している

特に3つ目が重要です。使い道が決まっていないと、空いた時間が「何もしていない罪悪感」に変わることがあります。最多回答が「自分の時間への満足感」だったことは、時間そのものより満足があるかが分かれ目だと示しています。

効かないケース|負荷の原因が「仕事量」ではないとき

この場合、力を抜いてもつらさは残る
  • つらさの原因が人間関係やハラスメント:相手は、こちらが働き方を下げても消えません
  • 業務範囲が曖昧で、断っても結局降ってくる:量は変わらないのに「やる気がない人」という評価だけが加わります
  • 収入そのものが足りていない:時間の余裕より先に、金銭的な不安が残り続けます
  • すでに心身に不調が出ている:働き方の調整では追いつかない段階の可能性があります

朝起き上がれない、出社を考えると体調が変わる。そうした状態があるなら、先に確認したいことがあります。以下も参考にしてください。

続けた場合に、自分が引き受けることになるもの

静かな退職は、コストのない選択ではありません。ただし「だからやめるべき」ではなく、「引き受けるなら知ったうえで決めたほうがいい」という話です。

① 評価と昇給の伸びは、緩やかになる可能性が高い

企業の評価制度には、期待を超えた成果に報いる設計のものがあります。求められた範囲を満たすことは評価の下限を守りますが、上限を押し上げる材料にはなりにくい。これは副作用ではなく、選択と表裏一体です。C(損得重視)タイプは、この交換を意識的に選んでいることになります。

② スキルが増える経路が、職場の外だけになる

新しい業務や難しい案件は、負荷であると同時に経験を増やす機会でもあります。取らない期間は職場で自然に増えるはずのスキルが止まります。学習・副業・資格など職場外の経路があれば問題になりませんが、なければ積み上がらない時間だけが増えます。

③ 転職時に語れる材料が減り、戻すのにも時間がかかる

中途採用の選考では、直近数年で何をして何が変わったかを問われます。期間が長いほど、この問いに答える材料は少なくなります。また、いったん「そういう人」と認識されると、再び力を入れ始めても任される仕事や評価の見直しには時間差が生じます。下げるのは一日でできますが、戻すには往復の時間がかかると考えておくほうが安全です。

④ A・Bタイプの場合、不満そのものは解決しない

ここが最大の落とし穴です。やりがいのなさや評価への不満から入った場合、力を抜いても原因は職場に残ったままです。負荷は下がっても、「評価されない」状況はむしろ固定されます。A・Bタイプにとって静かな退職は、解決ではなく一時的に痛みを弱める処置です。

「期限つきの静かな退職」という使い方

使い方は二通りあります。C・Dのように価値観に沿った定常状態として続けるか、A・Bのように消耗した状態から回復する一時的な期間として使うかです。

後者は、期限を設けると時間が流れるだけの状態を避けやすくなります。

回復期として使う場合の設計(例:3か月)
  • 終了日をカレンダーに入れる:「3か月後の◯月◯日に見直す」と日付で決めます
  • 引き上げた時間の行き先を1つ決める:睡眠を戻す、通院する、学習する、家族との時間に充てる。1つに絞ります
  • 職務経歴を1ページ書いておく:文章にしておくと、期限が来たときに現在地を確認できます
  • 終了日に3つを自問する:体調は戻ったか/不満の原因は変わったか/この働き方を続けたいと思えるか

終了日に「続けたいと思える」と答えられるなら、それは回復期ではなく、あなたに合った定常状態だったということです。答えられないなら次の分岐へ進みます。何を軸に選べばよいか分からない場合は、こちらも参考にしてください。

不調のサインがあるときは、働き方の調整より先に

眠れない状態が続く、食欲が戻らない、休日も回復しない、楽しめていたことに関心が向かない。こうした変化があるときは、働き方の調整で対処できる範囲を超えている可能性があります。静かな退職を検討する前に、専門の窓口や医療機関にご相談ください。

公的な相談窓口

働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省)
0120-565-455(フリーダイヤル)
平日(月〜金)17:00〜22:00(受付21:50まで)/土日 10:00〜16:00(受付15:50まで)
※祝日、振替休日、年末年始(12月29日〜1月3日)を除きます。
※2026年1月から、発信者番号を非通知とする電話は受け付けられません。非通知設定の場合は電話番号の前に「186」を付けてダイヤルしてください。
厚生労働省「こころの耳」電話相談

#いのちSOS(厚生労働省「まもろうよ こころ」掲載)
0120-061-338(フリーダイヤル・無料)
月曜日〜日曜日 00:00〜24:00(毎日24時間)
死にたい・消えたい・生きることに疲れたといった気持ちを専門の相談員が受け止め、状況を整理し、必要な支援策などについて一緒に考えます。
厚生労働省「まもろうよ こころ」

※番号・受付時間は2026年7月21日に公式サイトで確認したものです。変更される場合があるため、利用前にご確認ください。

続ける・変える・辞める|3つの分岐の選び方

そのまま続ける

C・Dタイプで、今の収入で生活が成立し、引き上げた時間に満足があり、評価や昇給の伸びが緩やかになることを納得して受け入れられる。そろうなら、静かな退職は問題行動ではなく、あなたの選んだ働き方です。

同じ会社で働き方を変える

不満の原因が特定の業務・上司・部署にあり、社内に異動や職種転換の制度があるなら、会社を変えずに環境だけを変えられる可能性があります。2026年調査の「会社の指示が強い」41.9%という回答は、希望を出せないという意味ではありません。出しても通らなかった事実が残れば、それが次の判断材料になります。

転職を選択肢に入れる

回復期を終えても不満の原因が変わらない、社内で環境を変える手段がない、続けても納得が得られない。この場合は、環境そのものを変える選択が現実的です。

大切なのは、在職したまま情報を集められることです。応募先の条件や提示額を確認してから決めても遅くありません。「辞める」と「調べる」は別の行動です。

よくある質問

Q
静かな退職は甘えでしょうか?
A

甘えかどうかを判定する客観的な基準はありません。調査での定義は「決められた仕事を淡々とこなすこと」で、仕事はこなしている状態を指します。契約で定められた範囲の仕事をしているなら、労働契約に反しません。「自分に合っているかどうか」を知りたいなら、4タイプのどれに当てはまるか、引き上げた時間に満足があるかを確認するほうが具体的です。

Q
静かな退職をしていることが会社にバレたら、問題になりますか?
A

指示された業務をきちんと遂行しているなら、それ自体が処分の理由になるとは考えにくいものです。一方、任された業務を放棄する、必要な報告や引き継ぎをしない行為は労働契約上の義務に関わるため話が変わります。線引きが不安なら、就業規則や労働条件通知書で業務範囲を確認してください。個別の判断が必要な場合は労働問題を扱う専門家にご相談ください。

Q
静かな退職をしている人は、どのくらいの割合ですか?
A

マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」では、20〜59歳の正社員男女3,000名のうち46.7%が「している」と回答しました(調査期間2025年11月18日〜21日、インターネット調査)。年代別は20代50.5%、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%。自己申告のため、回答者ごとに受け取り方の幅がある点は考慮が必要です。

Q
静かな退職を続けると、転職できなくなりますか?
A

できなくなると断定できるものではありません。ただし中途採用の選考では直近の職務経験を問われるため、新しい経験を取らない期間が長いほど、応募書類や面接で語れる材料は少なくなります。転職を選択肢として残したいなら、職場外での学習や副業など経験が増える経路を確保する、あるいは期間に期限を設けるといった方法があります。

Q
やる気がないと評価されて、給与が下がることはありますか?
A

評価制度や賃金の決まり方は企業ごとに異なるため、一律にはお答えできません。確認できるのは自社の制度です。就業規則・賃金規程・評価制度の説明資料を読み、評価が賃金にどう反映されるかを把握してください。マイナビ2026年調査では、中途採用担当者の回答で評価基準や結果が「公表されない」が27.6%でした。開示されていない場合は、人事や上司に確認を求めること自体が判断材料になります。

まとめ|問われているのは「良い悪い」ではなく「自分に合うか」

静かな退職をめぐる情報は、企業の側から書かれたものが目に入りやすい状況です。そこでは、あなたの働き方は防ぐべきものとして扱われます。しかし決めるのは本人であり、必要な判断はこの働き方が自分の状況で機能するかどうかの一点です。

この記事の要点
  • 調査での定義は「決められた仕事を淡々とこなすこと」。手を抜くことではない
  • きっかけはA〜Dの4タイプ。C・Dは選択、A・Bは環境要因で打ち手が違う
  • 効くのは業務範囲が線引きでき、引き上げた時間の使い道が決まっているとき
  • 引き受けるのは、評価・スキル・転職時の材料・戻すときの時間差、そしてA・Bでは不満の原因が残ること
  • 回復目的なら終了日を決めて使う。続けたいと思えるなら、それがあなたの働き方

いま力を抜いていることを責める必要はありません。確かめたいのは、その状態があなたが選んだものなのか、選ばされたものなのかという一点だけです。

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